5人の子どもがいれば、毎月14万円超が振り込まれる
【増田】そうです。教育問題の背景にある家計の事情も無視できません。率直な話、親が仕事もせずに子どもたちの児童手当で生活している家庭もたくさんありましたよ。ドイツは社会保障が充実しているから、子どもが大勢いるとそれが「稼ぎの源泉」になってしまう。4〜5人の子どもがいれば、毎月十数万円ほどの児童手当が入ってくる。
【マライ】トルコと言っても広く、イスタンブールなど大都市での生活はけっこう豊かです。だけど地方出身者の場合、外国に出稼ぎに行かざるを得なくなるケースも多いし、地域や家庭に昔ながらの価値観が残っていがちなこともあり、異国生活ではとかくギクシャクしがちです。さらに多産文化でもある。そういう家庭は、ドイツでも子だくさんになる傾向が強い。
ドイツの場合、「子どもがいる家庭にはきちんとした環境をつくらなければ」という観点から、いろいろお金を受給する権利が生じます。子どもが生まれたら、まず「両親手当(Elterngeld)」を受給できます。日本と同じく「児童手当(Kindergeld)」もあります。しかも日本より受給期間も金額も手厚いんですよ。
子どもが18歳になるまでもらえるし、その後も子どもが進学などした場合、25歳まで受給できる。金額はだいたい一人当たりひと月200ユーロ強。子どもが複数になれば若干加算されます。だから子どもが5人もいれば、ひと月1100ユーロ以上、日本円にして14万円以上もらえるんですね。これが、増田さんがご覧になった状況のベースとなる施策なんです……。
児童手当の支給に際し、所得制限はない
【増田】そんなに‼
何だか、うらやましい話ですね。日本では児童手当を減らす方向にあります。例えば中学生以下の子どもを対象とした児童手当の場合、高所得世帯向けの「特例給付」について、年収1200万円以上の世帯への支給を廃止することになりました。この改正児童手当法は、2022年10月支給分から適用されます。浮いた財源は、新たに保育所を整備するなど待機児童の解消に充てるとしています。所得の多い世帯は、児童手当がなくとも子育てには困らない、という発想なのでしょう。確かにそうなのかもしれませんし、限りある予算を少しでも多く配分したい、と考えたら、ある意味合理的な判断なのかもしれません。
ドイツは、児童手当の支給に際し、所得制限はあるのですか?
【マライ】それはないです。ドイツの法律は親の経済的な状況ではなく、子どもの福祉を第一に考えるように設計されているんです。だから、すべての子どもに同じ額が割り当てられる。ちなみにドイツでは、進学した18歳以上の子どもでも親が養う義務があって、その義務を果たさない場合、子どもが直接自分の口座に手当が振り込まれるように申請できます。親ではなく、子どものためのお金ですから。