菅義偉首相の後継を決める自民党総裁選は、岸田文雄氏が勝った。世論調査で「次の首相」のトップを独走していた河野太郎氏は敗れた。ジャーナリストの鮫島浩さんは「地方票で圧勝したにもかかわらず決選投票で敗れたのは、石破茂氏が安倍晋三氏と争った2012年と同じ構図だ。これから河野氏は石破氏のように干されるだろう」という――。
自民党総裁選を終え手を取り合う、(左から)野田聖子幹事長代行、菅義偉首相、岸田文雄新総裁、高市早苗前総務相、河野太郎規制改革担当相
写真=時事通信フォト
自民党総裁選を終え手を取り合う、(左から)野田聖子幹事長代行、菅義偉首相、岸田文雄新総裁、高市早苗前総務相、河野太郎規制改革担当相=2021年9月29日、東京都港区

河野氏「想定外の大惨敗」の意味

世論調査で「次の首相」のトップを独走し、自民党総裁選の本命とみられた河野太郎氏が惨敗した。党員票は1位だったものの、得票率は44%にとどまった。国会議員票では高市早苗氏にも及ばす3位に沈んだ。第1回投票から岸田文雄氏に首位を奪われる「想定外の大惨敗」だった。決選投票は岸田氏に大差で敗れた。

河野フィーバーは起きなかった。敗因ははっきりしている。自民党のキングメーカーである安倍晋三氏が「河野政権は断固阻止」を掲げ、立ちはだかったことだ。

安倍氏は国家観や歴史観をめぐる右寄りの政治信条が極めて近い高市氏を擁立して全力支援するとともに、ハト派の宏池会会長でありながら安倍氏に従順な岸田氏とも気脈を通じ、「反河野連合」を形成した。第1回投票を分散させ、決選投票で圧勝する狙い通りの展開となった。

そもそも河野氏を「次の首相」のトップに押し上げたのは、ツイッターをはじめとするインターネット上の人気だった。ところが、いざ総裁選が始まると、強固な安倍支持層が熱烈に応援する高市氏がネット上の話題を独占し、河野氏は埋没。河野家と中国企業の関係をスクープする週刊文春報道が追い討ちをかけ、ネット上では河野バッシングが吹き荒れる異例の展開となり、河野氏の勢いは完全に止まった。

一方、自民党の伝統的支持層や支援団体はパフォーマンス重視の河野氏を警戒し、穏健な岸田氏に流れた。左右両面から河野氏を包囲する安倍氏の狙いは的中したといっていい。

失速した最大の原因……“不鮮明な旗印”

これに対し、河野氏は「安倍支配からの脱却」の旗印を鮮明に掲げなかった。正式な出馬表明前に安倍氏と会談し、安倍氏と折り合う接点を探った。安倍氏が警戒する森友学園事件の再調査は「必要ない」と表明。原発再稼働を容認して「脱原発」の持論を封印し、女系天皇容認論も引っ込めて安倍氏との全面対決を避けた。安倍氏の盟友で、河野氏にとっては派閥の親分である麻生太郎氏への配慮でもあった。

世代交代に期待する世論の追い風を受けながら、安倍氏や麻生氏との決別を避けたことこそ、河野氏が失速した最大の原因である。総裁選の対決構図はぼやけ、「コップの中の争い」の様相を深めた。