安倍支持層の熱烈な応援を受けて「安倍継承者」の立場に躍り出た高市氏や安倍氏側近の萩生田光一氏、麻生派重鎮で安倍氏とも親しい甘利明氏を幹事長に起用すれば「安倍支配」の色合いはいっそう濃くなる。岸田氏としては避けたい人事だが、安倍氏に押し切られる可能性は十分にある。

「河野氏の石破化」という末路

安倍氏は自民党が政権復帰する目前の2012年9月の総裁選で、第1回投票では石破氏に次ぐ2位でありながら国会議員による決選投票で逆転した。当初は石破氏の国民的人気をあてにして幹事長に起用し、同年12月の衆院選と翌年7月の参院選に圧勝、長期政権の基盤を固めた。その後、石破人気に頼る必要がなくなると地方創生担当相として入閣させて幹事長から外し、2016年にはついに閣外へ追いやって無役とした。徐々に政治的基盤を奪っていったのである。

石破茂氏=2017年9月25日。山梨市市長選応援演説にて撮影
石破茂氏=2017年9月25日、山梨市市長選応援演説にて撮影(写真=さかおり/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

石破派は徐々に弱体化し、石破氏は昨年秋の総裁選で菅氏、岸田氏に続く最下位に沈んだ。石破派から脱退する議員が相次ぎ、今回の総裁選では自派だけで推薦人20人を確保できず、出馬をあきらめて河野氏支持に回った。今回の河野氏惨敗で石破氏の求心力がさらに低下するのは間違いない。

石破氏はもはや敵ではない。安倍氏の「仮想敵」は河野氏へ移る。河野氏は石破氏と違って安倍氏の疑惑追及には前向きではないが、世代交代への期待を背負っている以上、首相返り咲きを狙う安倍氏にとっては最大の脅威だ。

11月の衆院選に向け、国民的人気の高い河野氏をいきなり閑職に追いやることはできない。当面はワクチン担当相に留任させるなどして、石破氏と同じように少しずつ居場所を奪い、じわじわと干し上げていく。「河野氏の石破化」こそ、キングメーカーである安倍氏がこれから進める政界工作の基軸だ。

干されるか、完全服従か

河野氏の末路を見越して、自民党内には早くも距離を置く動きが始まった。総裁選直前に開かれた決起集会は敗戦ムードに包まれ、出席議員は数十人にとどまった。石破氏や小泉氏と組んで安倍氏の警戒感を刺激した「小石河連合」が間違いだった――河野陣営からはそんな声が公然と飛び出した。

権力闘争の世界は厳しい。「安倍氏や麻生氏との激突を避ける」というたったひとつの政局判断ミスが、つい先日まで「次の首相」レースのトップを走っていた河野氏を失速させ、孤立に追い込んでいく。石破氏同様、河野氏に近づいたら安倍氏に睨まれる――そんな恐怖感が自民党内を覆い始めた。河野氏の無力化がこれから進むだろう。

河野氏はどう対抗するのか。「お育ちの良い河野氏には安倍氏や麻生氏と徹底抗戦する胆力はない。石破氏と同じ道は歩みたくないという一心から安倍氏と麻生氏に完全服従するのではないか」と自民党関係者は予測する。その時、河野氏が国民的人気を維持できる保証はない。