バイクアニメやSNSの影響で免許取得者もどんどん増加
いずれにしても、2輪界の人気が全体的に底上げされているのは事実だ。密を避けながら移動できる手段としてバイクにスポットが当たり、もともと相性がよかったキャンプブームや釣りブームとマッチ。そこに芸能人やアナウンサーの動画配信、SNSを介した伝播、『ゆるキャン△』や『スーパーカブ』といったアニメ(漫画も含む)の影響、さらにはレンタルサービスの充実といった要素が加わり、手軽な趣味として幅広い世代に浸透している。
免許人口にもそれは表れている。警察庁によると、普通自動2輪と大型自動2輪の新規取得者の合計は、21万2950名(2018年)、22万2365名(2019年)、24万4212名(2020年)と増加している。いざ教習所へ入校しようとしても数カ月待ちが珍しくなく、実技や検定の予約がなかなか取れないといった新たな問題が発生しているものの、エントリーユーザーの拡大は着実に進んでいる。
電動化が囁かれる世界で膨らむ「今しかない」という思い
さて、現行モデルの新車よりもその中古車や新古車の方が高いという事実はその通りなのだが、既述の通りすべてに当てはまっているわけではない。限定的な事象ながら、「今しかない」「もう手に入らないかも」というユーザーの焦燥感に、効率よく利益を出したいショップの思惑が重なった不健全な形だ。
この焦燥感は電動化への不安という別の形でも露呈している。4輪界ではハイブリッド、マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、バッテリーEV、水素燃料電池といった具合にガソリンの代替ユニットが段階的に広がり、さまざまな選択肢が提示されてきた。
ところが国内の2輪界に目立った動きはなく、にもかかわらず「東京都内では2035年までに純ガソリンエンジンのバイク販売をゼロにする」「2050年までにバイクの90%を電動化」といった発言が聞こえてくるようになった。インフラも法整備も整っておらず、実用的な代替ユニットを持つバイクも一般化していないという現実が置き去りにされ、脱炭素社会の実現に向けて風向きだけが変わろうとしているのだ。
コミューターの世界は別として、現時点で電動化への具体性や実態が伴っている状況ではないが、ライダーの不安が煽られたのは事実だ。バイクの多くは、社会的な必要性や実用性よりも一個人の趣味心を満たすために存在している。プリミティブで非効率な乗り物だからこそ乗り続けているというライダーにとって一足飛びの電動化は受け入れ難く、時代への抵抗感と旧車ブームは決して無関係ではない。
現行モデルでは、43年の歴史を持つヤマハの空冷単気筒SR400の生産(一部海外向けは継続)が終了した。最終モデルは争奪戦の様相を呈し、74万8000円のファイナルリミテッドエディションには倍以上の価格で流通。その根底にあるのは、やはり「今しかない」という思いだ。
このように時代をとどめようとする意志は、ユーザーのみならず、実はメーカーからも感じられる。スズキの新型ハヤブサを手掛けたエンジニアは「10万kmでも20万kmでも、いや50万kmでも乗ってほしい」と真剣に語り、BMWは排ガスや音量の問題で年々淘汰が進み、決して効率的とは呼べない大排気量の空冷エンジンをあえて新規開発してR18に搭載した。そこからは、やがてやってくる電動という未来を前に、「どうか今のうちに純粋な内燃機関を手に入れ、その燃焼を末長く堪能してください」というメッセージが伝わってくる。