コロナの長期化で納車の見通しが立たないのが原因

最大の要因は、新型コロナウイルスの長期化だ。自動車産業同様、2輪メーカーも例外なく生産性が悪化。国内4メーカー(ホンダ・ヤマハ・カワサキ・スズキ)はインドのほか、タイ、インドネシア、マレーシアといったASEAN諸国にも生産工場を構えているため、労働力の分散や周辺地域のロックダウンの影響を免れることはできない。

また、生産ラインが動かせる状況にあっても、半導体やサプライヤーからのパーツ供給に遅延が生じ、たとえ完成しても今度は各国へ輸送するための船便の確保が難しい……と、どこまでも負のスパイラルが続く。程度の差こそあれ、国内工場でもこの状況は変わらない。4輪用パーツと並行して2輪用パーツも手掛けている下請け工場の場合、4輪メーカーから減産指示があれば、作業効率とコストの観点から2輪のラインもストップせざるを得ないのが実情だ。4輪の縮小分をすぐに2輪でリカバーできるほど小回りの利く環境ではない。

結果的に供給が追い付かず、納車まで1年待ちどころか、見通しが立たないことを理由に早い段階で受注が打ち切られる場合もある。そういう飢餓感の中で育ったニーズが、目の前の中古車市場に向けられれば競争が巻き起こり、価格が上昇方向に働くのは自然と言えば自然だ。「新車を注文してもいつ手に入るか分からないのなら、数十万円を上乗せしてでもすぐに欲しい」と旅行やレジャーがままならなくなった分の予算を余剰金として投下できる層は多く、それが新車と中古車価格の逆転を生み出している。

140万円→200万円、85万円→100万円のバイクも

とはいえ、国内の2輪生産キャパシティ全体はそれほど低下していない。コロナ禍の中、国内メーカーとて無策で手をこまねいているわけもなく、可能な限り生産体制を強化している。直近3年の国内出荷台数(126cc以上)の推移を見ると、9万3718台(2019年)、10万4193台(2020年)という実績を残し、2021年は8月末時点で8万1229台に達するなど、着実にデリバリーは進んでいるのだ。それでもなお、新車不足と言われるのは一部の人気車種に受注が集中していることと、それが想定以上の数字になっていることを意味し、あきらめられないユーザーのニーズが中古車の適正価格を有って無いものにしている。

Kawasaki Z900RS
写真提供=Kawasaki
Kawasaki Z900RS

顕著なのはカワサキ・Z900RSで、2017年12月の発売以来、世代を問わず高い人気を維持している。新車のメーカー希望小売価格が138万6000円であるのに対し、全国のショップを網羅する大手検索サイトで調べてみると、180万~200万円の値付けで店頭に並べているショップが珍しくない。5000キロ以上の走行距離を重ねた中古車は15~20%ほど価格が下がるのだが、それが新車の1.3~1.4倍ほどもするのだ。

Z900RSは往年の名車「Z1」をモチーフに持つとはいえ、プレミアムな限定モデルではなく、特別抜きん出たスペックや装備が与えられているわけでもない。ごく一般的な量産市販車の一台だが、デザインの巧みさと上質なサウンド、軽やかなハンドリングが広く評価された格好だ。

Ninja ZX-25R
写真提供=Kawasaki
Kawasaki Ninja ZX-25R
CT125・ハンターカブ
写真提供=Honda
HONDA CT125・ハンターカブ

他にも、84万7000円のカワサキ・Ninja ZX-25Rに100万~105万円、原付2種(51cc~125cc)では、44万円のホンダ・CT125ハンターカブに55万~60万円の売価が設定されるなど、似たようなケースが散見される。

無いと言われれば欲しくなり、欲しい人が重なれば価格が上がる。ごくシンプルな市場原理とはいえ、待てばやがて手に入り、正規ディーラーの新車なら少なくとも定価を超えて販売されることはない。やや冷静さを欠いている感は否めず、普通ではないこの状態が長く続くとも思えない。波が引くように1年ほどの間に沈静化するのでは、と予想する。裏を返せば、短期的には今がバイクの売り時でもある。