中国史のなかでたびたび起きたジェノサイド

中国の政治には、抗争がつきものです。その抗争が、統治者の間の争いにとどまっていれば、人民に被害は及ばない。でも、このまま中国がこの苛烈な政策を強行していくと、場合によっては、人民もこの紛争の中に巻き込まれて、大きな損害を被ると考えられます。

例その一

統一中国ができ上がる前の戦国時代。いろいろな国、諸侯が争っていました。国が七つぐらいあって戦争を繰り返している状態ですから、これは内戦ではなく、敵の軍隊は外国軍なんですね。外国軍と戦って、勝てば数十万人の兵士を捕虜にしたりする。

趙の国(周代・春秋時代・戦国時代にわたって存在した国。戦国七雄のひとつ)だったと思うが、戦いに敗れてどうなったかというと、捕虜になった数十万人の兵士らにまず自分で穴を掘らせる。穴を掘らせ、その中に入らせて、上から土をかける。

こうやって数十万人をすべて生き埋めにしてしまった。趙という国を二度と立ち上がらないようにするためのジェノサイドのやり方です。戦闘員が全員死んでしまうので、まだ村にいる非戦闘員はもう抵抗できない。そうしてだんだん同化が進んでいく。こういうことが中国の歴史ではよく起こるのです。

中国共産党政権下でも数千万人単位の犠牲が出ている

例その二

王朝が交代するときによく農民反乱が起こります。農民反乱が起こると無秩序状態になる。そんなときによく起こるのは、地主への襲撃です。

借用証書が焼き捨てられ、土地の権利書が破棄され、地主はたいてい殺害されてしまうのです。それで、農民らは小作地を取り戻す。次の王朝がそれを正当化する。これがずっと繰り返されているのですね。多くの人民の犠牲の上に次の政権が成り立つというのが、中国の標準的なやり方なのです。

橋爪大三郎、中田考『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)
橋爪大三郎、中田考『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)

太平天国の乱(*1)は、キリスト教系新宗教の反乱ですが、1864年に鎮圧されるまでの13年間で、人民の死亡者は5000万人とも言われています。単一の事件でこれだけの人数が死ぬことはそうそうありえないわけです。

その後、抗日戦争、国共内戦があり、やはり数千万人の犠牲者が出ました。建国後も、反右派闘争などがあった。大躍進でも数千万人が亡くなっています。文化大革命でも数千万人の犠牲が出ている。そういうことは、中国では時々起こるし、中国共産党政権の下でも数千万人単位の人民の被害が少なくとも二回起こっているわけです。

反乱や革命が起こるたびに、膨大な数の人民が巻き添えになる。ウイグル問題を考えるときも、中国の政治メカニズムのそういう凶暴な本質があることを頭の隅に入れておいたほうがいいと思います。

(*1)太平天国 清朝末期の1851年、洪秀全を指導者とする上帝会が中心となり建国された国家。キリスト教をもとに清朝打倒、土地私有反対等を主張したが、清とイギリス軍人ゴードンが率いる常勝軍の連合軍に鎮圧された。

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