言語・信仰・考え方を抜き去り、中国語を注入する

身体は元のまま生きていて、考え方が別のものになる。中国政府、中国共産党に都合がよいものになる。これが思想改造の本質なんですね。

そうすると、彼らは協力者になり、中国公民になって、中国ナショナリズムのよき担い手になるわけだ。しかも中国政府にとって、それが漢民族ではなく、もともと新疆ウイグルに住んでいた人びとであるという点がとても大事なわけです。

考え方を別のものに入れ換える。そんなことができるのかと思うけれど、それを無理やりやっているのが中国です。民族を弾圧するのだけれど、民族を生かしておく。これが、ユダヤ人の身体を抹殺してしまう、ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)のユダヤ人迫害との違いです。

天安門に掲げられた毛沢東主席の写真
写真=iStock.com/SCM Jeans
※写真はイメージです

先ほども言いましたが、新疆の人びとは、漢民族でもないし、顔が違い、言葉が違い、社会、風俗、歴史が違い、何から何まで違って、外国人なのです。その外国人を中国公民にしてしまうにはどうすればいいかと言うと、いろいろなものを頭の中から抜き去らなければならない。

言語を抜き去る。信仰を抜き去る。今までの考え方を抜き去る。そして、中国語(漢語)を注入する。中国語の考え方をオウム返しさせる。そして、社会組織や就業の構造や地域の在り方を中国風にしてしまう。民族の抹消です。身体は生きているけれども、ウイグル民族そのものを存在しなくさせてしまう。こういうものですね。

「個別の文化集団を、地球上から消滅させるための人格改造だ」

【編集部】収容者の監禁や教化、懲罰の状況を記録している中国政府の公文書が流出して、その内容がBBCパノラマによって確認されています。収容施設では希望者に、過激思想に対抗するための教育と訓練を提供していると説明していますが、文書の内容を見るとそうではないことがはっきりとわかります。

記事によれば、収容施設の責任者らに宛てた連絡文書には、次のような指示が書かれていたとあります。

「絶対に脱走を許すな」
「違反行動には厳しい規律と懲罰で対応せよ」
「悔い改めと自白を促せ」
「中国標準語への矯正学習を最優先せよ」
「生徒が本当に変わるように励ませ」
「宿舎と教室に監視カメラを張り巡らせて死角がないことを(確実にしろ)」

そして、収容者が自分の行動や信条や言葉を変えたと示すことができて初めて解放されるのだということが何度も詳細に書かれています。さらに文書には、収容者の生活も細かく監視、管理されている状況も示されています。

「生徒のベッド、整列場所、教室の座席、技術的作業における持ち場は決められているべきで、変更は厳しく禁じる」
「起床、点呼、洗顔、用便、整理整頓、食事、学習、睡眠、ドアの閉め方などに関して、行動基準と規律要件を徹底せよ」

BBCが意見を求めた人権問題に詳しい専門家は、「巨大な洗脳計画」「個別の文化集団を、地球上から消滅させるための人格改造だ」と答えています。また記事によれば、外国の市民権を持つウイグル人の逮捕や、外国で暮らすウイグル人の動向を追跡する明確な指示も出されていて、かなりナチズムに近い狂気を感じます。

もちろんこの報道に対して中国当局は、そんな公文書は偽物と断じて、「自治区ではテロ事件など一件も起きておらず人びとは生活を楽しんでいる。西側は中国の国内問題に介入し、新疆における中国のテロ対策を妨げ、中国の順調な発展を妨害する口実を作ろうとしている」と、反論しています(参照:BBCニュース「中国政府、ウイグル人を収容所で『洗脳』公文書が流出」2019年11月25日)。

【橋爪大三郎】はい。つまり生かしたまま抹殺するということですね。ユダヤ人は殺してしまった。殺しはしなくても、それに匹敵するほどのひどいことを中国共産党はやっているわけです。