ただし、よほどのインフレにでもならない限り、総理大臣や大臣の俸給は上がらないだろう。国会議員が総理大臣や公務員幹部のそれを増額する法律を提案することは考えられないからだ。ただ、国家公務員幹部ともなれば子どもも成長しているだろうし、趣味を楽しむ時間もない。食事もすべて仕事上の会合と言っていいから、お金を使うシーンはほとんどないと思える。
※指定職とは事務次官、外局の長、試験所又は研究所の長、病院又は療養所の長などが該当し、一般職国家公務員のなかでも最高幹部を指す。
昇進に必要な「入庁年次」と「重大事件に遭遇したか」
ここまで階級、序列について、書いたけれど、わたしの調べたところでは、警察という組織で、階級、序列と共に重んじられているのは入庁年次、任官年次だと思う。旧陸軍では「星(階級)の数よりメンコ(食器のこと)の数」とされ、軍隊で何年、生活していたかが重要だった。メンコの多い古参軍曹は新任の少尉を呼びつけてマウンティングしていたと書いてある本もある。
警察組織も軍隊同様、男子中心のマッチョな世界だから、キャリア、ノンキャリアの別よりも、現場では年長者の意見が通りやすい。
「なぜ、どうして、そんなことがわかるの?」と聞かれたら、長く取材しているし、警察庁長官経験者からもそうした例を聞いたことがあるからだ。
たとえば……。
「若くして警察署長になったとする。殺人事件の捜査方針に対して大学を出たばかりの署長がリードできることはない。地元で長く働くノンキャリアが捜査を進める」
こうしたことは警察内部の人間からも聞いた。
ただ、民間会社でも現場を持つところは同じようなことがあるのではないか。大学を出た若造が、工場へ行って、「鍛造工場のベルトコンベアのスピードを上げろ」と指示したとしても、現場の人間はちゃんとした根拠がなければ従わない。
名長官として名が挙がる後藤田正晴長官
そうしてみると、日本の会社は軍隊、警察に限らず、「星の数よりメンコの数」的な構造がある。
また、わたしは警察関係者と20年近く付き合っているけれど、同じ席で食事をしているうちに感じたのが、やはり「星の数よりメンコの数」だ。退官した後の警察幹部たちが礼節として意識しているのは先輩、後輩の間柄なのである。入庁年次が上の幹部に会ったとする。自分の方が肩書が上であったとしても、「先輩」と呼んで敬う。
それを見ていて、わたしは警察庁キャリアの世界は男子だけの中高一貫校みたいだなと感じた。
そして、警察庁キャリアのなかで、重んじられるのは「星の数より事件の数」である。在籍中、大事件に遭遇した長官、総監は平時の在任者よりも、風格が増すというか、激戦の戦場から帰った老将軍といった気配を身にまとう。
警察関係者が名長官として名を挙げるのが「カミソリ後藤田」「日本のジョゼフ・フーシェ」と呼ばれた後藤田正晴、第6代警察庁長官だ。