あなたをコミュ障にする「正解主義」
「いい人」は自分を殺しながらコミュニケーションを続ける――。そんなしんどい状況にある人がつい向かってしまうものがあります。それはコミュニケーションの「正解」、つまりコミュニケーションスキルです。
私たちは試験勉強などによって、少なからず「正解を求める」癖がついてしまっています。事実、私のもとには正解を求める質問がたくさん寄せられます。
「こういうときはどう答えたらいいんでしょうか?」
「あのとき、こういうふうに言ったんですけど、間違ってましたか?」
「正解主義」と呼ばれるのですが、人は目の前に問題が立ちはだかると、「正解は1つである」という意識を持ちやすくなるのです。
以前、ある女性がご相談にいらっしゃいました。ピシッとスーツを着て、いかにも仕事ができそうで、きっと異性や同性にとって憧れの存在なんだろうなあ、なんて印象の方でした。事実、英語も操れるし、話も上手で、自分の状況を的確に、そしてわかりやすく表現してくださる聡明な方でした。
ところが、ご相談というのが「人とのコミュニケーションがうまくできない」でした。思わず「え? あなたが?」と聞き直してしまいました。
「プライベートで何を話していいのかわからない」
お仕事では何百人という人の前で自社製品をプレゼンしたり、取引先に営業さんと同行して新製品のアピールをしたり、そのために海外まで出向いたりして、社内でも「成功してる女性」です。そんな方がなぜ? と思ってしまいました。
よくよく話をうかがってみると、「仕事では全然困らないのだけれど、プライベートになると何を話していいのかわからなくなってしまう」とのこと。
仕事では「何を話すべきか」は明確に提示されています。商品の機能や仕組み、そして、その商品を使うことによるメリット、価格やサービスについて。そして、そのプレゼンの方法もビジネスセミナーやコンサルティングサービスを通じて学ぶことができます。
しかし、そうしたスキルはビジネスにおいては有効でも、プライベートなシーンでは必ずしも役立つとは限りません。
「プライベートでは『これ!』という方法ってないですものね。その場の雰囲気や空気を読んでアドリブで会話するんですものね」と伝えると、「あ、ああ、そうですよね」と彼女。
「つまりは、会話のキャッチボールが苦手ということでしょうか? 質疑応答ではなく……」
「は、はい。そうなんです。何をどう話したらいいのかわからなくなっちゃうんです」
そのときの彼女の態度は、最初に自分の状況を説明してくださったときとは打って変わって別人のようでした。質問に対して一生懸命考えて、どう答えようか思案してから返してくれるのです。