マイクロソフトやレゴが「海賊版」に寛容な理由

この段階に至るまでは、実はメーカーは消費者イノベーションの存在に気づいていても製品化を検討することはしない。

実際、ウォズニアックは当時勤めていたヒューレット・パッカードの役員を前にアップルIのデモをしているが採用されなかった。企業が製品化に踏み切る決定をするにはニーズが不確実で量的にも不十分だからだ。

そこで消費者イノベーター以外の消費者が当該イノベーションに対してどのような反応を示すかがイノベーション過程の第3段階に進めるかどうかの指標になる。

消費者イノベーターだけでなく他の何人かの消費者が製品に好意的に反応した場合、イノベーション過程は第3ステージに入る。口コミなどを通じて当該イノベーションの市場潜在性が高いと予測できるようになると、メーカーが当該製品市場に参入する。

市場規模がそれほど大きくない場合は消費者イノベーター自身が起業して対応する場合もある(初期のアップルコンピュータはまさにそれだった)が、潜在性が大きい場合は大規模メーカーも参入を検討するようになる。

このように考えるとシュンペーターはあくまでもイノベーション現象の一部だけを取り上げていたことがわかる。彼はイノベーションを起こしたメーカーが市場リスクを負担し、製品を大量生産して市場投入する姿を想定した。しかし、そうした流れとは別にユーザーから始まるイノベーション・ストーリーが存在するのだ。

消費者が自分のために製品革新し、本人や他の消費者が複製し使っていく過程で市場が立ち上がる。市場が採算の見込める規模になってはじめてメーカーは製品イノベーション競争に参加するかどうかを検討する。そんなルートが存在するのだ。

技術革新が進み、今ではCADやレーザー・カッター、3Dプリンターなどを使い、消費者が自分のニーズを満たす製品を作ることが簡単になってきている。そうした時代の流れの中で私たちが提示した新パラダイムはますます存在感を示すようになっていくだろう。消費者イノベーター時代の到来である。

そうした時代では消費者が自分用に創造、改良した製品が他の消費者にとっても魅力的かどうかを把握することが重要だ。本連載で紹介したレゴやクックパッド、無印良品のように、インターネットを通じてそのための仕組みをすでに構築している企業がある。

またメーカーが消費者による海賊版製品に対し寛容あるいは好意的に接する必要が出てくるかもしれない。レゴのマインドストームやマイクロソフトの Xbox360向けデバイスKinectではハッカーが同製品のソフトウエアを改造することを容認し製品はヒットした。新時代を先取りした新たな取り組みはすでに始まっているのである。

(図版作成=大橋昭一)