菅氏退陣を想定していなかった野党の戦略ミス

野党は明らかな戦略ミスを犯した。とにかく敵は菅義偉首相と決めつけ、対策を練ってきたからだ。菅氏は、新型コロナ対策は後手後手となり、しかも臨時国会を開かずに衆院解散を模索するなど突っ込みどころ満載だった。立憲民主党ら野党各党は、菅氏を攻めることで浮上するつもりでいた。菅氏が衆院選直前で退場することなど想定していなかったのだ。

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野党勢力にとってやっかいなのは、ポスト菅候補に挙がっている顔ぶれだ。今、本命に浮上しつつある河野氏は、政治信条として「脱原発」を掲げ、税金の無駄遣いに切り込む姿勢をみせている。これは野党の政策と、まるかぶりである。

岸田氏は、自民党内ではハト派で、穏やかな性格が売り。安倍政権の時のような強権的な政権運営はとらないだろうから、野党からは攻めづらい。今回は総裁選不出馬となる可能性が高まっている石破氏も、若手時代、野党・新進党などに籍を置いていたことがあり、玄葉光一郎氏ら野党幹部らとは今も親交がある。いずれにしても菅氏と比べて、戦いにくいのだ。

菅氏の突然の退場は予見できなかったとしても、衆院選の前後には自民党総裁選は政治日程に上がっていたのだから、「石破首相なら」「岸田首相なら」ということは想定してある程度戦略を練っておく必要があったのだが、それができていなかった。

過去にも衆院選直前で急失速した「民主党」の詰めの甘さ

これまでの歴史をみると、選挙直前は野党が政権交代する可能性が十分あるとみられながら、結果として大敗した例は何度もある。

最近で言えば2017年の衆院選。9月に安倍晋三首相が衆院解散を決断するのを待つように小池百合子都知事が希望の党を結党。28日に解散したころ、安倍氏らは「小池旋風」に青ざめ、政権転落も覚悟した。ところがその後、小池氏の「排除」発言などで希望の党は急失速。結果として自民党が勝ったことは記憶に新しい。

2005年の「郵政選挙」では、小泉純一郎首相が解散に踏み切った直後は、自民党が事実上の分裂選挙となったこともあって、野党民主党内には政権奪取も可能との見方が広がった。当時、民主党で選挙を実質的に仕切っていた小沢一郎氏は「解散に追い込んだ」と上機嫌に語っていたものだ。ところが、その後、郵政民営化の是非を「国民に聞いてみたい」と呼びかけた小泉氏が圧倒的な支持を受けて自民党は大勝する。

党がピンチとなった時、なりふり構わず権力を死守しようとする自民党の執念を感じるが、言い換えれば野党側の経験不足、詰めの甘さが露呈したともいえる。