「ウォークマン®」はなぜ、成功したのか?
ソニーの「ウォークマン®」は創業者の井深大と盛田昭夫の発案で生まれた。部下たちが反対するなか、両経営者はリリースを決意、盛田は大衆へのセールスマンまで買って出た。その結果、ウォークマン®はこれまで世界で5億台近く出荷されている。
「屋外で音楽を聴く、という新しいライフスタイルを創り出したウォークマン®は、80年代のソニー黄金期をけん引した」
ウォークマン®についての記述をネットで調べると、こうした文章がいくつも出てくる。
ソニーが出した製品の中で、もっとも同社らしいといわれたヒット商品だが、作詞家の秋元康はウォークマン®について、こんなことを語っている。
「ウォークマン®がヒットしたのは録音できないから。また、録音できないことをちゃんと主張したから」
井深と盛田がウォークマン®を発想して、作らせたとき、社内のスタッフは「録音できないカセットレコーダーなんて、売れるはずがない」と反対し、録音機能を付けようと提案した。
却下したのは盛田である。
「ウォークマン®はステレオをパーソナルなものにするための製品だ。音がいいこと、軽くすること、かけ心地のいいヘッドホンがあればそれでいい。すべてにわたって優れている必要はない」
あらゆる特性をすべて備えた重量感のあるカセットレコーダーにしてしまったら、ウォークマン®は失敗していただろう。盛田は八方美人の製品よりも、一つの特徴にこだわる製品こそ、ソニーらしいものとわかっていた。
彼は人間に対してだけでなく、製品についても、本質を評価し、それをアピールして売り込んだ。
ウォークマン®発売よりも十数年前、盛田は評論家の大宅壮一との対談で、大宅が語った「ひとつのことを掘り下げる」点について、大いに賛同している。
ソニーの社員は八方美人な才能ではなく、ひとつのことに優れていてほしいと語っている。才能を愛する盛田ならではの言葉だ。
「大宅 徳富蘇峰はジャーナリストの条件として、エブリシングについてサムシングを知っていなくてはならない。そして、同時にサムシングすなわち自分の得意とする面についてはエブリシングを知っていなくてはならない、と言ってますが……。
盛田 それです、それです。それなんですよ。(略)
ひとつでも自分の特徴がなければいかん。私は入社試験の面接で、『あなたの特徴はなんですか?』と聞くんです。ところが言下に『私はこういう特徴があります』と言える人は少ないですよ。
自分の特徴も売り込めない人が、セールスに行って、他人の作ったものをうまく売り込めるはずがない、と言うんですがね」