“とんがった会社”にするための「採用論」

1991年、ソニーは「学歴不問採用」を打ち出した。大学名を履歴書に書かなくとも、就社試験を受けることができるという意味で、学歴がない人が有利というわけではない。今、同社の幹部の中でも、これ以降に採用されている人間は多いはずだ。

一時は「ソニーは死んだ」とまで言われ不振が続いたけれど、2017年には大きく業績をアップさせた。学歴不問採用の効果とも言えるだろうか……。

盛田が残した決断のうちでも、学歴不問採用は大きなものだった。そもそもこの採用に至る前、『学歴無用論』(1966年、文藝春秋)という本を出し、そこに意見を載せている。

「その人が、どの大学で何を勉強してきたかは、あくまでもその人が身につけたひとつの資産であって、その資産をどのように使いこなして、どれだけ社会に貢献するかは、それ以後の本人の努力によるものであり、その度合いと実績とによって、その人の評価が決められるべきである」

「大学で教えている専門の学問が、どの程度まで企業の要求するものに役立つか、はなはだ疑問であるし、実際、学校では秀才だった者が必ずしも社会の俊才になるとは限らないのも、事実である」(いずれも同書から)

これを読むと、盛田は大学を否定しているのではなく、学歴よりも「特徴(才能)を持て」と言っていることがわかる。盛田はマイケル・ジャクソンのようなミュージシャンだけでなく、自社の社員にも特徴(才能)を要求したのである。

大宅壮一との対談でも、こう語っている。

「学校の成績は、全課目おなじようにできることがいいとしているようですね。ところがうちの会社としてはそうじゃない。すべてのものができるよりも、ひとつの特徴を持っているほうがいいんです。

よく『私は意見が違うからソニー辞めます』という社員がいるんですがね。トンでもない、だからこそ、社にいてもらいたい、と私は言うんです。みんながおなじ意見だったら、大勢の社員がいる必要はない。(略)

だから、うちの社は、それぞれ特徴を持ったやつがいいわけです」

経営者の決断の瞬間とは、えてして経営上の問題、財務や新製品の発売についてだと思ってしまう。しかし、盛田昭夫の場合はそれよりももっと根本的なことを最初から決断していた。

「特徴のある人間が集まって、特徴のある製品を出す」

今も昔もソニーとはそういう会社だ。そして、特徴のあるとんがった会社にしたことが、彼のもっとも大きな決断だった。