暗号資産(仮想通貨)のビットコインは今年4月、「1万BTC=695億8251万円」という高値をつけた。11年前の取引開始時はほとんど無価値だったにもかかわらず、なぜここまで価値をもつようになったのか。暗号資産の仕組みと暗部を描く『カラ売り屋vs仮想通貨』(KADOKAWA)を出した黒木亮さんが解説する――。
パトロールするタリバンの要員
写真=EPA/時事通信フォト
パトロールするタリバンの要員=2021年8月19日、アフガン南部カンダハル

ピザ2枚と交換した仮想通貨が約700億円に急成長

暗号資産(仮想通貨)の関係者が年に1度ピザを食べて祝う日がある。「ビットコイン・ピザデー」と呼ばれ、世界で初めてビットコインの取引が行なわれた2010年5月22日を記念するものだ。

この日、フロリダのプログラマー、ラズロ・ハニイェス氏が「1万BTC(ビットコインの取引単位で1BTC=1ビットコイン)とピザ2枚を交換してくれる人はいないか」とインターネットの掲示板で呼びかけ、カリフォルニアの19歳の学生がそれに同意して、米国の「パパ・ジョーンズ」というピザの宅配業者にネットでピザ2枚を40ドル(当時の為替レートで3598円)で注文して届け、1万BTCを受け取った。

ビットコインは今年4月14日に円換算で695万8251円をつけたので、40ドルの対価の1万BTCは695億8251万円という天文学的な金額に膨れ上がった。

乱高下が当たり前の世界で儲けているのは誰か

ほとんど無価値のビットコインが11年後に目を剥くような価格に暴騰した過程で、多数の「億り人」を生み出した。一方、今年7月下旬にはピークの半値以下に暴落し、遅れて市場に参入した投資家は大きな損失をこうむった。

しかし、常にもうけている人々がいる。暗号資産の取引所(交換業者)だ。

取引所がいかに莫大な儲けを上げているかが白日の下に晒されたのは、2018年1月26日に取引所運営会社のコインチェック(本社・東京都渋谷区)がハッキングに遭い、約580億円相当のネム(2015年に取引が始まった新しい暗号資産)を盗まれたときだ。

同社は3年半前にできたばかりの新興企業で、事件によって倒産確実と見られた。しかし、予想に反して約466億円を顧客に払い戻した。交換レートは盗まれたときのレートではなく、その2日後に補償方針を発表したときのレートだったので、580億円ではなかったが、466億円ものキャッシュをぽんと用意したのである。