夜間高校1年時、突然、父親の呂律が回らなくなった

幼い頃から落ち着かない家庭環境で育った和泉さんは、小学校3年生の頃からだんだん学校へ行かなくなり、4年生になる頃には完全に不登校になっていた。

中学に上がると、同じような家庭環境で育ち、問題行動を起こしたり、不登校になったりした先輩や友だちとつるみ始める。先輩の家でタバコを覚え、酒を飲み、深夜まで町を徘徊して遊び歩くように。

中学2年生になると、学校の先生からの勧めで、学力不足やいじめ、人間関係の悩みなどの理由から不登校やひきこもりになった子どもが通うフリースクールに通い始めた。

父親は離婚後、夕飯の支度をはじめ、家事一切をしてくれていた。母親は同じ町内で、パチンコがきっかけで知り合った男性と暮らしていたが、離婚後も3日に1回は連絡をとっていた。しかし両親は、和泉さんが不登校になっても深夜まで遊び歩いても、何も言わなかった。

勉強が嫌いだった和泉さんは、当初は高校に進学するつもりはなかったが、仲の良かった先輩に誘われ、夜間高校に進んだ。

2007年2月。高校1年だった和泉さんは、珍しく夕飯時に家にいた。57歳の父親はいつものようにテレビを見ながら晩酌をし、時折、和泉さんに話しかけるが、呂律が回っておらず、何を言っているのか分からない。和泉さんは異変を感じつつも、「酒を飲みすぎて酔っ払ってるだけかな?」と思い、その日は就寝。

酒、日本の酒
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ところが翌朝、父親の表情がいつもと違って目に生気がなく、口を開くとまだ呂律が回っていないことに愕然とする。「もう酒も抜けてるはずなのに、これはおかしいぞ……」そう思った和泉さんは、母親に連絡をする。

同じ町内に住んでいた母親は、すぐに駆けつけてくれた。看護師だった母親は、父親の状態を確認すると、「あんた! 右手が動かんことないかい? 握ってみない!」と声をかけたが、父親の右手は動かない。母親は和泉さんと2人で父親を抱え、急いで自分の車に乗せると、脳外科を受診。

画像検査の結果、脳梗塞と診断された。

脳梗塞が起こったのはおそらく前日の夜。それからすでに12時間以上経っている。

父親は詰まった血管の部位には手を加えず、そこから先の血流が不足している領域の脳血管に、脳以外の血管を持ってきて血管同士を繋ぎ合わせることで不足した脳血流を補い脳梗塞の悪化を防ぐために行われる、バイパス手術を受けることになった。

その日の夜、無事手術は終わったが、父親は右半身にまひと、失語症が残った。