ターゲットは自由な時間もお金も少ない男性たち

それを知るために、同年代・既婚男性の“懐事情”から見てみましょう。

男性は、いまだに結婚すると「お小遣い制」となる人たちが少なからず存在します。ある調査によると、20~60歳夫の5割弱(45.2%)がお小遣い制(21年 UOCC調べ)。

その金額はというと、別の調査で、ライフステージ別に最も小遣い額が多いのは「未婚男性」(約4万6000円/月)で、逆に最も少ないのが「既婚・子アリ男性」。とくに少ないのは「未就学児のみいる世帯」、その多くはおそらく若いパパ(約2万8000円/月)で、未婚との差は2万円弱/月にものぼります(21年 新生銀行調べ)。

また現・30代男性は、完全なるイクメン世代で、一般には結婚して子どもができると“時間”にも余裕がなくなる。つまり、「これ絶対うまいやつ!」のメインターゲットである夫たちは、自由になるお金も時間も少ないのではないかと想像がつくのです。

開発段階で見えた男性の意外な心理

彼らの多くは、休日やアフター5に「あの名店に、うまいラーメンを食べに行こう!」と思っても(コロナ禍でなくても)、現実には気軽に出向きにくい。

そんなジレンマを抱えるなか、「ならば家庭で、国道沿いのラーメン店の味を味わいたい」と思った男性たちは、同時に何を発想するのか?

開発段階で、資逸さんたちが彼らの微妙な心理を探った結果、意外なことが見えてきたといいます。

それは、「自分が好きなラーメンを、妻や家族にも食べさせてあげたい」との思いです。

昭和~平成半ばに30代だった男性たち(おもに現・40代後半以上)の多くは、ラーメン店に「隠れ家(知られざる名店)」や「ガッツリ飯」「男のロマン」といったイメージを強く抱いていて、筆者が取材しても、「結婚後に妻を連れていきたい」や「子どもに食べさせたい」との声はほとんど聞こえてこなかった。

ところがイマドキの30代男性は、一般に女性と同じく「共感力」が強い世代。自分が食べて美味しければ、たとえラーメンでも牛丼でも、「妻や子にも食べさせたい」となる。

20年9月の発売直後にオンエアされた「これ絶対うまいやつ!」のCMでも、そんな男性たちの欲求が再現されています。

テレビCM「日清 これ絶対うまいやつ 麺恋歌篇」(2020年)(写真提供=日清食品)
テレビCM「日清 これ絶対うまいやつ 麺恋歌篇」(2020年)(写真提供=日清食品)

冒頭で「麺恋歌」と題した曲(湘南乃風「純恋歌」の替え歌)に合わせて「♪うちのラーメン ご家庭の味~ ほんとは濃いのが食べてぇよ~」と男同士、力強く踊る男性たちが映し出されたあと、そのうちの一人が家庭で、妻と思しき女性にラーメン(「これ絶対うまいやつ!」)を作って一緒に食べる……、といったシーンが映ります。

同じ男性でも、冒頭の「男同士、外で踊る」やんちゃな顔と、「妻と共に、家ナカで食べる」優しい顔とは、大きくイメージが違う。

ここに、現・30代の夫(父親)の微妙な心理、すなわち「なかなか(独身時代のように)外食できない」、あるいは「仕事中に立ち寄った(国道沿いの)ラーメンの名店の味を、せめて家で家族にも食べさせてあげたい」といった切なる思いが、上手に表現されていると言えるのではないでしょうか。