ぼくは社員たちと現場の情報をすべて共有したうえで、常に一緒に動きながら考える。社長室も専用車もなければ、海外出張も1人。給与以外は社員たちとすべて一緒で、自分としては経営者というより、“部活動のキャプテン”のような感じです」

半導体市場は変動が激しく、好不況の波にさらされる。動きながら考える「知的体育会系」の経営は、不況の底で投資を行い、好況の山でその成果として最先端製品を放つというエルピーダ独自のやり方を生み出した。

「不況時は好況時の五倍くらい動き、考えるので、市場が悪いときほどいろんなアイデアが出てきます。精一杯考え、仕事に集中するから逆に今が不況だという閉塞感がなくなる。不況時に本当に動きながら考えた会社が好況時に強くなれる。イージーに過ごした会社は好況の果実をもらえません」

坂本氏が社員とともに動こうとするのは、「少年時代はガキ大将」という性分にも由来する。台湾メーカーと一緒に3年間で約1兆6000億円を投じて世界首位を目指す合弁工場を立ち上げた際もこんなことがあった。

「台湾側は初め線幅70ナノメートルの最先端技術導入を躊躇しました。すぐ台湾に飛び、こう訴えました。競争が厳しい世界にあっても、ぼくの理想は社員が幸せになれる会社です。そんな会社をつくるため、一緒に世界一になりましょう。台湾側も最終的にはぼくを信用して踏み切ってくれました。ほかの人が交渉していたら相手が納得したか疑問です」

本人に「度胸はあるほうか」とたずねると、「臆病だから逆にいろんな判断ができるのでしょう」。

現場での行動力と戦略的な思考、そして、社員との一体感を大切にする「戦略的ガキ大将経営」が氏の理想像なのだろう。逆境時の苦しさもやりがいに転化させ、次々と山を踏破する現場指揮官型マネジャーの1つの生き方モデルがここにある。

(大沢尚芳=撮影)