「お墓の維持は高コストで管理が大変」という人が一番損する恐れ

対応が比較的簡単なのは、①「墓を承継する子や孫がいない」場合だ。菩提寺住職に相談し、先祖代々の遺骨はその境内にある永代供養塔などに移し、最後に納骨される自分や配偶者も永代供養塔への納骨予約をしておけばよい。

墓じまいを希望する理由の典型例は、②「お墓の維持にはコストがかかるうえ、管理が大変。子や孫に迷惑をかけたくない」かもしれない。しかし、このコスト重視での墓じまいを考える人こそが結果的に一番、損をする恐れがある。

そもそも墓にかかるコストとは、年間の管理費(に加えて護持費を設定している寺も多い)と法事の際のお布施だ。管理費は年に1万~2万円程度が多い。

管理費の根拠は、常日頃の墓地・境内清掃の人件費や水道代などの固定費を、檀家の頭数で割った数。墓地の管理費を寺院だけで負担するのは不可能なのだ。清掃にかかる費用だけで、小規模な寺院ですら年間100万円以上はかかる。

だが、管理費を取っていながら、墓地の雑草はボーボー、いつもゴミが散乱しているような寺の場合、「管理費を払っているのだから、きちんと清掃してもらいたい」とクレームをつけるべきだろう。

護持費は伽藍の修繕積立金のようなものだ。一般的には管理費・護持費を合わせてもせいぜい2万~3万円だ。お墓の年間コストといえば、これだけである。

法事は1周忌や7回忌、33回忌などそうは頻繁にあるものではないし、法事のお布施も払う側が決めればよい(常識的には3万~5万円程度)。

この年間数万円のコストを「払い続けることはできない」と考え、墓じまいに到る人が出てきているのだ。だが、墓じまいをするというのは、「寝た子を起こす」のと同然である。住職や墓地管理者が改葬許可証にあっさりサインしてくれたからといって、「やれやれ、これで将来的にコストがかからずに済んだ」と考えるのは早計だ。むしろ逆である。

墓じまいの風景
撮影=鵜飼秀徳
墓じまいの風景

「墓じまい=寝た子を起こす行為」と言える理由

なぜなら、墓じまいを決めた段階で新たな費用が、次々と発生するからだ。

まず、墓じまいのための撥遣式(性根抜き、魂抜き)の儀式と、さらには移動先の墓所の開眼式(性根入れ、魂入れ)をやる必要がある。この代金は、「お布施」であるが、施主の事情で改葬するわけだから儀式1回につき、法事1回分(3万~5万円程度)くらい払うのが常識的だろう。

さらに、古い墓の撤去費用がいる。遺骨を取り出したはよいが、墓石を放置して去っていくのは許されない。これは墓石店に払う。その費用は一般的な大きさの墓で30万円ほどはかかる。

無事に菩提寺から遺骨を持ち出せたとしても、手元に残った先祖の骨壺をどうするのか。どこかの永代供養墓を見つけ、改めて納骨するしかないのだ。都会の永代供養墓の場合、1柱あたり50万円以上が相場。複数の骨壺がある場合は、数百万円にものぼる可能性もある。しかも、改葬前の菩提寺同様に、永代供養墓でも年間管理料等が発生するケースも少なくない。

開き直って「墓なんかいらない」と、ゴミとして捨てるのは犯罪である前に、人として許される行為ではない。野山や川に「勝手に散骨」すると「遺骨遺棄罪(3年以下の懲役)」に問われる可能性がある。

遺骨の埋葬は、「墓地、埋葬等に関する法律」(墓埋法)によって、都道府県知事の認可を受けた墓地にしかできないことになっているからだ。つまり、墓じまいして遺骨を取り出したからといっても、霊園指定された場所に埋葬しなければいけないのだ。