「より少ない労働で、より多い業績を」

口座に貯められる残業時間や清算するための期間は企業ごとに異なり、なかには育児や介護のためにまとめて使う人もいます。ダイムラーでは子どものいる女性がキャリアを諦めないためにこの制度を利用するそうです。あるマネージャーの女性は、出産後はフレックスと短時間勤務を組み合わせて週4日働き、残業することがあれば口座に貯めて他の日に使うそうです(NIKKEI STYLE 出世ナビ「残業した時間『ためて休む』ドイツ先進職場の働き方」2015年12月7日)。

貯金箱と時計
写真=iStock.com/artisteer
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この口座があれば、子どもの授業参観や運動会などの行事の時にちょっと仕事を抜け出して戻ってくることもできるでしょう。日本にも是非導入してもらいたい制度です。

ドイツも元々は残業代を支払っていたのですが、1990年代に労働時間貯蓄制度にシフトしていきました。

企業としては、残業代はなるべく支払いたくない。働く側としては、残業代をもらえないのならさっさと帰りたい。両者のニーズが合致して、定時になったら即帰る習慣が身についたようです。

そして、定時に帰るためには就業時間内に仕事を終えなくてはならないので、自然と生産性が高くなります。残業代をもらえないなら、サービス残業に甘んじる日本とは大きな違いです。

サービス残業は、言葉は悪いですがタダ働きなので、会社にお金を支払っているのと同じです。給料は変わらないのではなく、実質減っているのです。

ドイツには生産性を向上するという意味で「より少ない労働で、より多い業績を(Weniger Arbeit, mehr Leistung)」という標語があります。「より少なく働き、より業績をあげる(Weniger arbeiten, mehr leisten)」という言葉もあり、最小限の時間で最大限の結果を出すことがドイツではよしとされているのです。

「時間は無制限」と思っていると生産性は落ちる

お金の浪費は稼げば取り戻せますが、人生の浪費は取り戻せません。

皆さんも、これ以上自分の人生を浪費しないために、“時間ケチ”になり、より少ない時間で労働できるように働き方を見直してみてください。時間が無制限にあると考えると、どうしても生産性は落ちます。

日本電産の永守重信会長は以前「2020年度までに残業ゼロを目指す」と公言されていましたが、もともと永守氏は「土曜も日曜も朝も夜もない、起業家は人の何倍も働かないといけない」と考え、朝は4時に起き、1日16時間も働いていたことで有名です。

ところが、企業が成長し、海外企業を買収するようになってから、外国人の働き方が日本とはまったく違うことに気付いたのです。欧米では定時になると誰もいなくなるし、ドイツ人は1カ月ぐらい休暇を取ってしまう。それでも利益をしっかり出すので、日本も海外のような働き方に変えないと世界で勝てないと悟ったのです。