「地元で強い」日本の各地でトップの仏教の宗派は何か?

しかし、日本全国まんべんなくそれぞれの宗派が分布している、というわけではない。地域によって、かなりばらつきがある。それは「真宗王国」「禅宗王国」「法華(日蓮宗)王国」などという表現でたとえられることもある。

改めて北から見ていこう。

北海道・東北に教線(布教の範囲)を拡大したのは曹洞宗だ。その理由について、『曹洞宗宗勢総合調査報告書 2015』では、

〈現在の曹洞宗寺院の多くは、15世紀中頃以降に開創されたものが大多数を占めるが、それは当時、新興勢力として台頭してきた在地領主である『国衆』が領有する発展途上の村落に展開した。商工業が発展し、多くの人々を引き寄せる都市部においては、他派の教線が入り込んでいたためであり、曹洞宗寺院はその間隙を縫って、その数を飛躍的に増加させていった歴史的経緯がある〉

としている。

本州の最北端にある青森県下北半島のパワースポット恐山(菩提寺)も、曹洞宗寺院だ。

下北半島の通称「恐山」は、曹洞宗寺院菩提寺の境内地である
撮影=鵜飼秀徳
下北半島の通称「恐山」は、曹洞宗寺院菩提寺の境内地である

北海道は江戸時代までは蝦夷地と呼ばれて、アイヌの住む土地だった。そもそも北海道は仏教の歴史は浅いが、江戸時代に幕府がロシアの南下政策に危機感を抱いて「蝦夷三官寺」を開いたのが最初である。蝦夷三官寺とは、浄土宗の有珠善光寺(伊達市)、天台宗の等澍院(様似町)、臨済宗南禅寺派の国泰寺(厚岸町)だ。いずれも現存している。

「蝦夷三官寺」のひとつ、浄土宗の有珠善光寺(伊達市)
撮影=鵜飼秀徳
「蝦夷三官寺」のひとつ、浄土宗の有珠善光寺(伊達市)

明治時代に入って、布教が本格化し、現在道内には2300もの寺がある。これは北海道開拓のための移民の心の拠り所、供養の場として寺が開かれたからだ。永幡豊『北海道における仏教寺院の分布について』によると、北海道開拓民の多くは東北6県(41.4%)、北陸4県(26.3%)が占めていた。曹洞宗王国の東北と真宗王国の北陸からの大量移民の影響を受け、現在、北海道では曹洞宗が全体のおよそ20%、浄土真宗系が43%という分布になっている。

東京都は浄土宗寺院が多く、千葉県では日蓮宗寺院が多い

東京都を含めた首都圏の仏教勢力はどうか。

戦国時代、各地の戦国大名の庇護を受けた寺院が、その地域で力を持つようになった。たとえばこの頃、江戸に入った徳川家康は東京・芝の増上寺の存応に深く帰依し、菩提寺にした。そのことで増上寺は徳川歴代の墓所となり、江戸では浄土宗寺院が勢力を拡大する。現在でも都内には浄土宗寺院が多い。

家康のブレーンだった天台宗の僧、天海が3代将軍家光の時代に創建した寛永寺も同様に将軍家の菩提寺となり、江戸時代は関東では浄土宗と天台宗の勢威が高まった。

また、千葉県では日蓮宗寺院が多い。それは日蓮の直弟子日進が法華経寺を拠点にして、上総や下総で大布教を展開した影響が考えられる。

日蓮宗の布教の拠点となった千葉県の法華経寺
日蓮宗の布教の拠点となった千葉県の法華経寺

北陸は浄土真宗を開いた親鸞の嫡流、蓮如が15世紀に越前吉崎に赴き、布教の本拠地としたことで、まさに「真宗王国」になっている。