介護施設に入所する高齢者などから警察に110番通報される事案が増えている。介護の現場を取材するライターの相沢光一さんは「訴えの内容は『施設に監禁された』というものですが、調べるとその事実はない。コロナ禍で家族との面会が制限されるなどして孤独感が募り、正しい判断ができなくなったようです」という――。
警察
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです

高齢者が「監禁された、助けて」と警察に110番増加の背景

「これまでは一度もなかった入所者さんとのトラブルが、最近起こるようになってきたんです」

そう語るのは首都圏にある介護老人保健施設(老健)の職員、Kさんです。トラブルとは何でしょうか。

「高齢の入所者さんが携帯電話で110番をして、『今、監禁されているので、助けに来て』と警察を呼ぶんです。職員からすればショックですよ。もちろん監禁なんてしていませんし、そんなふうに思われるような対応をした心当たりもない。にもかかわらず警察が来て事件性を疑われ、事情を聞かれるのですから」

Kさんの施設では、今年に入ってから入所者が警察を呼ぶケースが3件あったそうです。

「私はこの施設で働き始めて10年近くになりますが、こんなことは一度もありませんでした。なぜ、突然こんなことになったのだろう、と考えこんじゃって……」

老健は在宅復帰を目指してリハビリや医療ケアを行う施設です。入所条件は原則65歳以上で要介護1以上の認定を受けている人。体の機能が低下して在宅での介護が難しくなった人、病院に長期入院した後で現状では在宅復帰が厳しい人などが入所します。

入所者と職員の関係がよく明るい雰囲気の施設なのに……

リハビリによって機能が回復すれば在宅に復帰できるわけで入所期間は基本的に3~6カ月。つまり体の状態を良くするための一時的入所です。入所者も「自宅に戻る」という前向きの目標があってリハビリに励む。そんなこともあって老健は高齢者施設のなかでも明るい空気が漂っています。

筆者もKさんの施設を見学させてもらったことがあります。入所者の方々が理学療法士などの指導を受けて行うリハビリは大変そうではありましたが、その目には「元気になるぞ」という前向きの姿勢が感じられましたし、リハビリの効果が出て担当者から「頑張りましたね。もう少しですよ」などと声をかけられると笑顔も浮かびます。また、入所者と職員の会話は和気あいあいとしていて、とても良い関係に見えました。