コオロギ食レストランは連日満席

……と、威勢よく書いたところで、多くの人はコオロギを食べるには至らないだろう。論より証拠、というわけで、筆者も実際にコオロギを食べてみた。

結論から言うと、非常においしかった。

ANTCICADAのコオロギチップス
筆者撮影
ANTCICADAのコオロギチップス

こちらは、コオロギのチップスだ。とてもサクサクしており、おいしい。コオロギの味は、あごだしによく似ており、煮干しのしっかりきいたラーメンを食べたときのような満足感がある。それでいてしつこくない余韻は、とても上品だ。

コオロギのチップスにウニをのせたもの
筆者撮影

こちらは、そのチップスにウニを乗せたもの。ここに垂らした醤油もコオロギを焙煎して作られている。

コオロギを食べる=コオロギを見なくてはならない、というわけではない。加工品として姿形が見えなくなったコオロギであれば、チャレンジできる人も増えるはずだ。というわけで、ANTCICADAでは、コオロギの姿がわからないよう工夫されたコースで始まる。

こうした細やかな配慮もあり、ANTCICADAは連日満席だ。さらに口コミが話題となり、オンラインショップも盛況となっている。

マーケティングで全く新しいものを導入するコツ

今回、コオロギ食が成功した背景について書いてきたが、本来「まったく新しいもの」を成功させるのは至難のわざである。消費者は「これって、◯◯っぽい」と思えない、全く新しいものは購入できない。それでいて、既存の製品だけではつまらないと感じる、わがままな生き物だ。

だからこそ、ヒット商品は「知っているけど、ちょっと新しい」ものでなくてはならない。そのうえで、コオロギ食は「無印良品」「三ツ星レストラン」といった誰もが知っていて、信頼しているブランドとの組み合わせがあったからこそマッチした。

逆に、ヨーロッパ圏では「サステナビリティ」こそ親しみと信頼のあるフレーズだったゆえに、サステナビリティを押し出すことで昆虫食がヒットした。しかし、日本ではサステナビリティという単語があまり一般消費者に親しまれていない。

そこで、既存の新しいブランド価値のあるフレーズと組み合わさって「知っている・信頼しているけれど、少し新しいもの」に進化する必要があったのだ。

2013年時点ではそれがかなわなかったかもしれないが、2021年に至り、コオロギ食のヒットはようやく実現しようとしている。

「○○っぽいけど、新しい」がヒットの条件

このように、ブームになるまである程度の時間を要したものの、条件を満たしたことで一気にヒットする製品は多い。日本で親和性の高いブランドと次々にひも付いていっているコオロギ食は、おそらく今後、ますます広まり「え、食べてないの?」と言われるまで売れていく可能性はある。

もし、同様に日本ではあまり受け入れられていないコンセプトや商品を売りたければ、既存の製品やサービスと組み合わせ「これって◯◯っぽいけど、新しい」と思ってもらう必要があるだろう。新規商品は新規性だけで売れるものではなく、あくまで既存製品とのひも付けでしか売れないからである。

【関連記事】
「夜中に甘いものが食べたい」三流は食べ、二流は我慢する、では一流は?
メンタル不調のときにまず食べるべき最強で手軽な「うつぬけ食材」
40代で一気に「顔の老化」が進む人が毎朝食べているもの
「作業着なんてムリ」そんな若者を惹きつけた"スーツに見える作業着"誕生秘話
売り切れ続出「GUのサニタリーショーツ」がつかんだ女性の"隠れた欲求"とは