日本企業の事業売却を後押しする3つのファクター

さらに“カネ余り”を背景に活発に動く買い手の存在も見逃せない。

コロナ禍によって経済活動が大きく制約を受けるさなか、日米欧は経済テコ入れや雇用維持に向けて政府が巨額の財政出動に動き、中央銀行も実質ゼロ金利と量的緩和(QE)を継続し、その結果、ジャブジャブに溢れかえった投資マネーがファンドなどの買い手を勢いづかせる。

一方で、2015年から上場企業に適用された企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)もあり、企業サイドも企業統治体制の整備や資本効率の向上が求められ、中核事業と関連の薄い不採算事業などの見直しを迫られる。

これら3つのファクターが重なり、日本企業の事業売却を後押しする構図が生まれている。

昨年も6月にオリンパスがカメラ事業の売却を発表したほか、8月には武田薬品工業がビタミン剤「アリナミン」に代表される大衆薬(一般医薬品)事業の切り離しを決めた。大手製造業の事業売却は、2021年もその勢いは止まりそうにない。

一眼レフカメラ
写真=iStock.com/penguenstok
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社名は「アリナミン製薬」になり、「武田」は外れる

大手企業の事業売却の狙いは、経営資源を中核事業に集中して成長力、競争力を高めることにある。

資生堂の場合、売却する日用品事業は国内が中心であり、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や英ユニリーバといった日用品のグローバルな巨大企業と伍して戦うには極めて力不足であるのは否めない。しかも、国内市場でも花王、ライオンなど大手との競争は激しい。

資生堂の魚谷社長はこの点について「グローバル企業との競争で環境は厳しく、限られた経営資源から商品開発や広告宣伝などに十分な投資ができない」と日用品事業の売却を決断した背景を説明する。事業を維持していくよりは強みの高級化粧品に経営資源を集中し、グローバル化を加速する狙いを日用品事業売却の決断に込めた。

武田薬品工業がブランド力のある「アリナミン」、風邪薬「ベンザ」などを抱える大衆薬事業を手放すのも、資生堂と方向性は似ている。

武田薬品工業の場合、大衆薬事業を分社化した完全子会社の武田コンシューマーヘルスケア(東京都千代田区)を2420億円で米投資ファンド大手のブラックストーン・グループに売却する。売却は2021年3月31日を予定しており、社名は「アリナミン製薬」に変更される。主力のビタミン剤の商品名に由来し、社名から「武田」は外れる。

武田コンシューマーヘルスケアの売り上げが好調なビタミン剤「アリナミン」シリーズ=2017年9月1日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
武田コンシューマーヘルスケアの売り上げが好調なビタミン剤「アリナミン」シリーズ=2017年9月1日、東京都千代田区