なぜコンプレックスは営業に役立つのか

ところで、どうしてコンプレックスが営業に役立つのでしょうか。答えは2つあります。まずは、求められるリーダー像の変化です。かつてはカリスマのような人が周囲を巻き込みながら進めていくことが求められていました。しかし、急激な社会の変化で生き残るためには1人の力では限界が生じるようになってきています。

中北朋宏『コンプレックスは営業の最高の武器である。』(日本経済新聞出版)
中北朋宏『コンプレックスは営業の最高の武器である。』(日本経済新聞出版)

だからこそ、「助けてもらう」ことが重要になってくるのです。そのためには、「コンプレックス」をさらけだし、「助けてやるか」という相手の気持ちを引き出すことが成功のカギになってきます。その過程で、「自分のこんな大切なことを打ち明けてくれた」という思いが先方に芽生え、信頼関係もより強いものになるはずです。

つぎに、強い「共感」の醸成です。オンラインでの営業により、会うまでのハードルがぐっと高くなりました。嫌になればスイッチひとつで離脱でき、会うための支度もしなくていい。自由に使える時間が増えたいま、かつてのようにわざわざ「会って」話すためには、「この人に会いたい」という強い動機が必要です。

人は誰しも、大なり小なりのコンプレックスを抱えています。しかし、その多くは恥ずかしかったり、諦めていたりして、なかなか人に伝えるのは難しいでしょう。だからこそ、コンプレックスを昇華し、「かつては○○だったけど、今は楽しい」とポジティブに過ごしている人に対して憧れと尊敬を抱くのです。

だからこそ、コンプレックスを昇華した人の人間的魅力は高まります。普段、非常にポジティブで仕事もできるように見える営業が、実は暗い過去や暗黒時代を乗り越えていたとしったら、ちょっと心を引かれるかもしれません。場合によっては、遠くに感じていた営業の存在に、自分を重ね合わせることができ、一気に心の距離を縮めることができたり、応援したくなったりするかもしれません。

コンプレックスの開示には、人の心を動かす強烈なメッセージが伴うのです。

「伝える」コンプレックスを作るための3つのステップ

最後に、コンプレックスを整理し、人に伝えられるようにするための3つのステップをお伝えします。まずは、心が動いた瞬間を洗い出しましょう。できれば社会人になってからの経験のほうが、営業シーンでは使いやすいはずです。「頭にきた」「悲しかった」など、自分の心が動いたシーンを書き出してください。自分史を書きながら思い出すのも有効でしょう。

次に、洗い出した経験から得たプラスの側面を書き出します。例えば、提案書を突き返されて悔しかった経験から「顧客のことを考えて行動する必要性を学んだ」、というような感じです。

最後に、このマイナスとプラスの要素をつなげ、今の自分を作っているものとして再認識しましょう。ポイントは、お客さまに話す前提で、浅い学びから深い学びまで、段階に応じて作ることです。

自己開示は、相手に合わせて段階的に行うことが大切です。例えば、初対面の相手との自己紹介で、「実は昨日離婚しまして……」と伝えれば、たしかに印象には残るかもしれませんが、多くの相手は少し引いてしまうでしょう。だからこそ、多様なレベルのエピソードを持っておけば、「ここぞ」というときにエピソードを差し込み、心を掴むことができるでしょう。

【関連記事】
会議で重箱の隅つつく「めんどくさい人」を一発で黙らせる天才的な質問
ナショナルの伝説の営業マンが使っていた顧客の心を一発で掴む「売り文句」
「どうしても合わない人」と仕事するときに"絶対やってはいけないこと"
陰口、見下した態度…"攻撃的な人"の攻撃力を封じるとっさのひと言
「朝の野菜ジュースはNG」なぜか仕事中に眠くなる人が食べているもの