2020年に放送されたテレビドラマの中で、最も視聴率が高かった番組『半沢直樹』(TBS系)。その最終回は「君は将来、この銀行の頭取になるべき男だ」というセリフで締め括られる。だが、経営共創基盤(IGPI)会長の冨山和彦さんは「あれが最後の決め台詞というのは、やはり昭和の時代劇だと思った」という——。

※本稿は、冨山和彦『リーダーの「挫折力」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

銀行看板
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昨年ヒットした半沢直樹は「ファンタジー」

2020年に第二期が放映されたドラマ『半沢直樹』。第一期から7年ほどのブランクがあったにもかかわらず、第一期と同様に大ヒットした。私も毎回、楽しみに見ていたが、このドラマを見てどう考えるかは、実はあなたのリーダーとしての資質が問われる試金石である。

今の日本の組織にはさまざまなしがらみがあり、それが業績悪化の一因となっている。その多くは昭和の時代に作られた会社という仕組みがうまく機能しなくなったことに起因している。『半沢直樹』で描かれるさまざまな問題の根幹にもそれがある。

例えばドラマで描かれた航空会社の再建問題は、私もタスクフォースとしてかかわった日本航空(JAL)のケースがモデルになっている(かなりデフォルメされているが)。あのドラマ内でも描かれていたように、当時のJALにはさまざまな問題が山積していた。そのことは誰もが認識しており、変わらなくてはならないと思いつつ、それぞれの立場やしがらみもあり、なかなか実現しなかった。その結果、国の支援を必要とするまでに追い詰められてしまったのだ。

しかし、ドラマの半沢はそんなしがらみを一刀両断してみせる。ドラマの中のタスクフォースは実に情けない敵役だったが、私が実際に喋った一刀両断決め台詞を、半沢の台詞としてほぼそのまま使ってくれていた。そして、相手が企業のトップだろうと政治家だろうと「正論」をそのままぶつけ、最後には倍返しで勝利してしまう。

だが、現実の組織には半沢はいない。というより、あんな人物がいたらとっくに潰されている。誰だって問題点はわかっているが、正論をそのままぶつけたら大変なことになるとわかっている。昭和のサラリーマン世代にとっては、そんなルサンチマンがあのドラマへの共感を生み出している。原作者の池井戸さんが語っている通り、半沢直樹はあくまでファンタジーなのだ。

つまり、半沢直樹のようなスーパーマンがいない中で、どのように会社の問題を解決すべきかを考えなくてはならないのだ。「わが社にも半沢直樹がいればいいのに」などと考えているようでは、リーダー失格である。