若者は、会社を辞めない半沢が理解できない

一方、『半沢直樹』を若い人が見ると「なぜ、半沢はあんな仕打ちを受けて会社を辞めないのか」と考えるはずだ。これはまったくもって正論なのだが、だからこそ、辞めたくても辞められないという40代以降のビジネスパーソンの心をつかむのだ。

このズレがあるにもかかわらず、あのドラマが若い人にも受けたのは、ズバリ「時代劇」として作り込んだことにあると思う。実はドラマの進行と合わせて、同じタイミングで実際のJAL再生で起きたリアル帝国航空再建の過程をツイッターでつぶやいてみたのだが、これが大反響。ツイッターはSNSとしてはFacebookなどよりも比較的若い世代が多いのだが、「リアルのほうも面白いので続けてくれ!」とリクエスト殺到で、結局、全回つぶやき続けることになった。

若い世代の彼らは、市川猿之助以下、芸達者の歌舞伎役者勢ぞろいで演じる、まさに時代がかった勧善懲悪の時代劇をテレビで楽しみ、同時に彼らにとってはよりリアリティのある平成の事件に関する私のツイートを楽しんでいたのである。

浅草の田園通りで歌舞伎キャラクター
写真=iStock.com/atiana Petrova
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昭和世代には共感満載のファンタジーとして、平成世代には『遠山の金さん』や『水戸黄門』と本質的には同じ時代劇を近現代に舞台を移した極上のエンターテイメントとして、幅広い世代それぞれに受けるドラマに仕上げた制作スタッフに脱帽である。

昭和は遠のき、リアル「半沢頭取」誕生

最終回の最後のシーンで、北大路欣也が演ずる頭取が半沢に「君は将来、この銀行の頭取になるべき男だ」と語りかける。半沢直樹はバブル入行世代なのでもう50歳代のはず。そんな年齢のおっさんをつかまえて「君は将来……」が最後の決め台詞というのは、やはり昭和の時代劇だと私は思った。

東京中央銀行はグローバルな金融の世界で戦うメガバンクという設定だ。今どきグローバル競争を戦う企業のトップ就任時期はおおむね50歳代前半、40歳代ということも少なくない。何が起きるかわからない生き馬の目を抜くグローバル金融の世界は、365日24時間のハードワークである。しかもフィンテックなどの破壊的イノベーションの大波がガンガン押し寄せる。

50過ぎの半沢にいうならどう考えても、「次の頭取は君だ」だろう!……と思ってあちこちにそんなことを書いていたら、2020年の暮れに東京中央銀行のモデルとされているメガバンクのトップに「半沢さん」が50歳代半ばで就任するという報道が流れた。

昭和は着実に遠くなりつつある。鞍馬天狗じゃないが「ニッポンの夜明けは近いぞ」といいたくなるうれしいニュースだった。

『半沢直樹』は非常によくできたドラマだが、それを見て強く共感する世代もいれば、もはや「時代劇」としてとらえる世代もいる。これからリーダーを目指す人には、あれを「時代劇」だと思って楽しむ感性と、わが身に重ねて共感する世代がいることを理解する知性との両方が必要だろう。