顧客リストという強みを最大限活用する

ここからは百貨店業界への提言です。

まずは自らの強みを自覚して、それを極めることです。なんといっても百貨店には、優良顧客とよい関係を築いてきた信用と歴史があります。従業員教育が行き届いていますから、接客力もすばらしい。

特別に大事なお得意さまのデータベースともいえる「お帳場」を持っていますし、自宅まで出向いて商品を届ける「外商」という制度もある。お得意さまのなかには、「親の代から衣食住にまつわるすべてのものは、全部○○屋さんでそろえる」というお客さんも少なくない。つまり、どの業界も垂涎ものの「顧客リスト」を持っているのです。

コロナでお客さんの自宅を訪問しにくければ、リモートで接客すればいいだけ。お客さん一人ひとりに対して、画面を通して相談にのったり商品の紹介をしたりすれば、ライブコマース以上に対面並みの接客ができる。もし、お客さんがシニアでオンラインに不慣れなら、専用のタブレットを渡して使い方をお教えすればいい。もともと面識のあるお得意さまなのだから、さらに絆が強まるに違いありません。

扱う商品も、衣服や装身具に頼らず、デパ地下人気に代表される食品類、食器などのライフスタイル雑貨など、需要が伸びている領域に注目すべきです。

「大塚家具」のようになってはいけない

さらには、モノだけでなく、高齢者向け、富裕層向けの金融商品、運動サポートや健康づくりなどのサービスにも広げていける可能性があります。自分たちにノウハウがないなら、ノウハウを持つところと組めばいい。組む先はいくらでもあるし、「百貨店と組みたい」という人たちはいくらでもいるでしょう。

リアル、バーチャルを超えて、富裕層にとっての「ポータル」であり「プラットフォーム」になることを目指すのです。

いちばん危険なのは、近年の「大塚家具」のようになってしまうことです。大塚家具はあれだけの目利き力と接客力、そして優良顧客のリストを持っていたにもかかわらず、「ニトリになりたい」と思ってしまった。自分の強みを見失って、世の中の流行だけを見て、正反対の方向に動いてしまったのです。百貨店には同じ轍を踏んでほしくないと思います。

(構成=長山清子)
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