「気合いを入れておしゃれするのはダサい」という価値観
彼らはおしゃれにうつつを抜かす人たちのことを、口では「いいと思いますよ」と言いながら、内心は「自分たちとは別人種」だと思っている。「気合いを入れておしゃれをする人って、中身がなさそう」と感じているのです。もちろん、人それぞれの自由なので、表立ってディスったりはしませんが、心の中で自分は「そうはなりたくない」とはっきり思っています。
その一方で実質的なものを重んじるので、機能性に優れていてコスパがいいユニクロなどの価値は認める。いくらおしゃれでも、着心地が悪いとか、寒い・暑い、動きにくいものには価値を認めない。それに、そこそこセンスがいいので、ユニクロを着ていてもコーディネートなどで個性を出すのが上手です。
さらにいまの若者は地球環境を守ることにも関心が高く、再生繊維でできていたり、長く着られるものを「カッコいい」と判断します。逆に使い捨てだったり、モノを無駄にするのは「カッコ悪い」。
ところがファッション業界では、相変わらず消費を促進するために、「計画的陳腐化」を行っています。つまり毎年の流行をつくり出すことで、流行遅れをつくっていく。そうすることで物理的に着られる服があっても、流行遅れで着られないようにして、新しい服の需要を喚起する。このようなことは、とてもいまの若い世代には受け入れられませんし、意識はしていなかったとしても、心の奥底で反感や嫌悪さえ感じさせている恐れがあります。
アパレル業界への2つの処方箋
アパレル業界が、どうしても自分たちがおしゃれと感じるものを作りたいのなら、もう「いまの若い世代におしゃれなものを提案する」というようなことはやめて、もっと上の世代を狙うことを考えたほうがいいのではないでしょうか。いまの50代以上は、おしゃれに意欲があるいっぽうで、体型も崩れてくるので、それをカバーする洋服にはニーズがあります。作り手のファッションセンスとも近い。人生100年時代ですから、60代、70代、80代になっても、自分をよく見せてくれる新しい洋服を着たがるはずです。
もう一つの方法が、マスを狙うのをやめて、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー:消費者直接取引)の方向に行くことです。「流行をつくりだす」ようなことは完全にやめて、一人ひとり個別に受注生産をするくらいの覚悟を決めたほうがいい。
化粧品も食品もすべて、その人に合わせてパーソナライズされていくのは、間違いないのですから。
若い世代であっても、高いクルマに乗りたがる人は一定数いますし、フレンチレストランで一食10万円の食事を楽しみたい人はいる。そういう人たちは洋服にもお金を惜しまないので、専属のスタイリストとなったりオーダーメードの服を作ったり、その人たちに向けて仕事をするという手があります。
少数の相手であっても存在意義があることが大切です。いまのマス向けの洋服のままでは、作り手の都合だけで、誰からも必要とされなくなっていくでしょう。