絶望下に登場した「MMT」という理論

日銀が異次元の金融緩和を始める前の時点でも、国債の金利は大きく下がっていました。これは、有望な投資先がなく、さりとてお金を遊ばせておくわけにいかないので、「とりあえず国債を買っておこう。国債なら安全だろう」とみんなが同じことを考えて買った結果です。「周りが買うから自分も買う」状態であったと言えるでしょう。

ところが、日銀が爆買いをするようになってからは、「周りが買うから買う」状態から「日銀が買うから買う」状態に変化してしまいました。さらに、日銀が金利を抑え込んでいるので、増税を2回も延期できました。もし、日銀がいない状態で消費税の増税を延期した場合、日本財政の持続可能性に疑問が持たれ、大きく国債が売られてしまっていた可能性は高いです。そうなれば円も暴落して大騒ぎになっていたでしょう。つまり、金利は財政に対して警告を発する役割を果たすのですが、日銀のおかげで警告機能は失われました。

このように絶望的な状況なのですが、最近、「MMT」という理論がごく一部の人達から支持され、「日本の財政は大丈夫だから、むしろもっと借金をしろ」と主張されるようになりました。

円安インフレの隣にいるベネズエラ

MMTとは、Modern Monetary Theory(現代貨幣理論)の略です。端的に言うと、「自国通貨建ての国債はデフォルトにならないので、インフレにならない限り、財政赤字は問題無い」という主張です。だからもっと借金して財政支出をたくさんしろと言うのです。しかし、これは全く真新しいことを言っていません。形式的にデフォルトを避けるためなら、最後は自国の中央銀行に直接引受をさせればよいからです。

ところが、それをやれば、先ほど説明した通り円が売られ、円安インフレが発生します。円安インフレが進行し過ぎると、それに合わせて財政支出を増やさないと追いつかなくなります。そこで財政支出を増やすと、また「円の価値が下がるぞ」と思われてやはり円が売られて円安インフレが悪化します。

このように、財政支出増大→インフレ→インフレに合わせて支出増大→さらにインフレ進行→インフレに合わせて支出増大→さらにインフレ進行という無限のスパイラルが発生するのです。これが理解できないので、ベネズエラではずーっとこのスパイラルが止まらず、インフレが進行しっぱなしです。

MMT論者の主張を見ていると、「今はモノやサービスの需要に対して供給が過剰だからデフレなのだ。供給不足にならない限りインフレにならない」と思い込んでいるようです。