国債は古典的詐欺スキームと全く同じ

しかし、日本国債の場合は借換債だけでも一般会計の予算規模を超える100兆円以上発行しているのです。最も残高の大きい建設国債及び特例国債については、60年償還ルールにより、残高のたった1.6%しか毎年元本を返済していません。日本は基礎的経費すら税収で賄えない国ですから、借金は全部借金で返しているのです。「返済」と称しているのは、借りた金をまた配り直しているだけです。これは、「ポンジスキーム」という古典的な詐欺手法と全く同じです。

ポンジスキームというのは、「何かを運用して得た利益を分配するとうたってお金を集めるが、実際は運用などしておらず、単に出資者から集めたお金を配り直すだけ」という詐欺手法です。最近の日本の例で言うとジャパンライフ事件が挙げられるでしょう。その手法は簡単に言うと「磁気ネックレス等の健康器具のオーナーになって、それをジャパンライフに預ける。ジャパンライフはそれをユーザーにレンタルして、レンタル料を取り、それをオーナーに渡す」と謳うものです。オーナーになろうとする人は、単にジャパンライフにお金を払うだけです。そして毎月配当金が口座に振り込まれます。

返済スケジュールを守るということ

しかし、オーナーの数に見合う健康器具はそもそも存在していませんでした。単にオーナー達から集めた金をオーナー達に配り直していただけなのです。これは新たなオーナー達を確保し続けなければどこかの時点で必ず配当金を支払えなくなり、確実に破綻する商法です。しかし、やり方が巧みであったため、極めて長期間持ちました。

日本がやっていることは、ポンジスキームに他なりません。したがって、投資家達が手を引けば、あっという間に国債が暴落します。毎年発生する莫大な償還金も、新しく金を借りられるから一応形の上では返済できているのです。しかし、借金の貸し手がいなくなれば、それは成り立ちません。国債が暴落すれば、通貨も運命を共にしますので、通貨も暴落し、凄まじい通貨安インフレが発生します。これが大規模に発生したのが、1980年代〜90年代における中南米の債務危機でした。

要するに、MMT論者は「返済」という要素を異常に軽視しているのです。借金で通貨が増えていくという理解は合っていますが、返済スケジュールが守られることが最も重要な要素です。

将来の自分からお金を奪ったのは誰?

返済スケジュールが守られない状況が民間企業において大規模に発生すると、銀行危機になります。日本の金融危機がそうでしたし、リーマンショックもそうです。

明石順平『キリギリスの年金 統計が示す私たちの現実』(朝日新書)
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MMT論者は、「誰かの赤字は誰かの黒字」という言葉をよく使います。誰かが借金しないと他の誰かの黒字は生まれないということです。間違いではありません。しかし、ここでも、「通貨安インフレ」という要素が無視されています。返済ができなくなれば、国家の通貨は信頼を失って暴落するのです。そうすると、いくら通貨をたくさん持っていても無意味です。その価値が無くなってしまうからです。

そして、通貨が崩壊した場合、ある意味「帳尻が合う」のです。借金は現在価値と将来価値の交換と言いました。そして、見方を変えれば、借金は将来の自分からお金を奪うものであると。通貨が崩壊すれば、お金が一気に奪われて借金返済に充てられるのと効果は同じです。野放図な財政が行き着く先は、一生懸命貯めたお金が奪われることなのです。そして、奪ったのは、過去の国民です。その中には既に世を去った先人達もいますが、過去の自分も含まれています。

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