理系コンプレックスをこじらせる文系人間

今回のコロナ騒動に関連して、テレビに多数出演し、有名になった理系の専門家にはたくさんの“信者”がついた。そして信者たちは「先生、これからも有益な情報を発信してください!」「政府におもねる御用学者とは違い、先生の言っていることには信憑性があります!」などと、絶賛キャーキャーコメントをSNSやヤフーニュースの欄外などに書き込みまくっている。

私はそうした現象の背後に、冴えない文系人間の歪んだ理系コンプレックを見てしまうのだ。いいかげん文系の人間は、つまらない理系コンプレックスから解放されてはどうか。

理系の人間、文系の人間、それぞれが得意なことを出し合いながら、互いに補完し合えばいいのだ。緊急事態宣言の発令などについても、政府は分科会のメンバーにマーケティングの専門家など文系の有識者を入れて、検討や判断をおこなってもよかったはずだ。そのほうが、経済的な課題を解決する提言ができたかもしれない。そもそも文系領域で活動している人材のなかにも、理系的素養を兼ね備えている人は少なからず存在する。そうした人材は案外、合理的にものごとを判断できる。

コロナで“教祖化”していく理系の専門家

コロナについてSNSで連日のように意見している人物は数多いが、そのなかでも私がとくに注目している一人にコンサルタントの永江一石という方がいる。私は同氏の「文系だが、マーケターなので理系的な考え方も持っている」という特質にとても共感する。永江氏の合理的な言説には賛同する点が多く、何より筋道が明快なのでしっくりくるのだ。

同氏の基本的な論調は、「若者はコロナに罹患りかんしても重篤化しないケースが大半。であれば、高齢者のために全世代が一律で自粛するのではなく、現役世代で経済を回し、社会を維持しよう」というものだ。私もこの考え方には完全に同意である。永江氏は、心理学や大衆の行動変容の研究といった文系的な知見を持ちつつ、理系的な素養として「データを読み解く」ことの重要性を知っているのだろう。だからこそ同氏の意見はバランスが取れているし、私も納得しながら読み進められる。

テレビに登場する理系の専門家は、とかく「このままだと指数関数的に死者が増加して、近いうちに42万人もの死者が出ます!」「現在の東京は2週間前のニューヨークです!」などとうそぶく。こんなことを数千万人が視聴しているであろうテレビで主張されたら、理系コンプレックスに染まった文系愚民は「ははぁ~理系の賢者様、説明を聞いても難しくてよくわかりませんでしたが、われわれの気の緩みを申し訳なく思います~」なんて意識を持つようになるだろう。それでますます理系専門家の「教祖化」が進むのである。