福島は震災前まで「板かまぼこ」で日本一の生産地だった。しかし、風評被害で販売は大きく落ち込んだ。ローカルアクティビストの小松理虔氏は「放射能汚染の情報も大事だが、それ以上に、かまぼこの製造工程や原料などを徹底して開示れば、新しいファンを開拓できるはずだと考えた。その試みは当たった」という――。

※本稿は、小松理虔『地方を生きる』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

飾り切りが施されたかまぼこ
写真=iStock.com/yumehana
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風評被害に苦しめられたかまぼこメーカー

地域で働いてみたい。そう思っている人におすすめしたいのが、食に関する仕事に就いてしまうことです。

農業や漁業といった一次産業だけでなく、食品製造に関わる仕事もあります。消費者としてだけでなく生産者の立場から食を見直すことで、自分のこれまでの暮らしや地域の見方に、別の角度から光を当てることにつながります。ぼくは、食に関わる仕事をするようになり、いままで以上に地域の魅力や課題が見えてきました。

ぼくは、2012年に、それまで2年ほど勤めていた木材商社を辞め、いわき市の永崎という海沿いの町にあるかまぼこメーカーに転職しました。映像作家の友人の高木市之助くんがすでにそのかまぼこメーカーに勤めていて、仕事に関する話を聞いていたこともあり、食の世界に興味を持つようになったんです。

仕事の面白さややりがいだけでなく、福島県で食に関わるすべての人が経験したであろう「風評被害」についての話も聞いていました。福島第一原子力発電所の爆発事故により、広範囲に放射性物質が飛散し、福島県の食品の安全性が揺らぎました。

多くの消費者が不安を感じるだけでなく、さまざまなメディアを通じて不確定な情報が飛び交い、それを慮ってか、店頭から福島県産品の取り扱いがなくなったり、他県のものに切り替えられたり、価格が落ち込んだりという経済的な被害が生じたのです。

これが「風評被害」です。いわきのかまぼこメーカーも例外ではなく、震災後に一度落ち込んだ売り上げが回復せず、マイナスイメージに苦しめられていました。