魅力と課題は同時に発見される
ぼくは、原発事故直後から、風評被害の問題はつまるところ「コミュニケーションの問題」だと感じていました。
現場の状況や取り組み、放射線に関する情報が圧倒的に伝わっていない。安全性を担保する自社の取り組みや、商品の美味しさ、こだわりを、生産者が消費者にダイレクトに伝えることができれば、きめ細やかなコミュニケーションにつながり、お客は戻ってきてくれるはずだと。
ただ、生産者サイドには、時間的にも人員的にも余裕がないだろうとも感じていました。そこで、これまでテレビや雑誌の会社に勤めてきたぼくの経験が活きるかもしれない。いや、活かさなければと思ったんです。
結果的に、2012年の春から2015年に独立するまでの3年間、ぼくはかまぼこメーカーで広報と営業を担当しました。この特別な3年間で、食に対する意識が大きく変わりました。
いままでは「消費者」でしかなかったところに、それとは反対の「生産者」の見方がインストールされたからです。いままで以上に食の安全について深く考えるようになりましたし、流通などにも関心が生まれました。100円ショップで売られているような食品にも、ものすごい技術やノウハウが濃縮されていることもわかりました。
と同時に、地元の食品製造業が抱える課題も見えてきましたし、何より、胃袋に入れるものに対して自分がいかに無関心だったか、ということに気づかされました。本書で繰り返し書いているように、やっぱり魅力と課題は同時に発見されるものなんですね。
かまぼこの産地はどこなのか
この発見は面白さにつながります。いままでわからなかったことがわかるようになったり、いままで見えていなかったことが見えるようになるのは、ものすごく「面白い」ことです。
テレビ番組などで、慣れ親しんだお菓子やファストフードがどのように生産されているのか特集されることがありますが、あれと同じです。「慣れ親しんだ普通のもの」に利用されている技術や、これまで知らされていなかった原料や味つけ、生産の「秘密」を知ることは、ものすごく面白いことであり、さらなる信頼を作る機会になるわけです。
ひとつ例を出してみましょう。スーパーに売られているかまぼこがありますよね。ピンクとホワイト、だいたい2種類並んでいます。あのかまぼこの原料はなんという魚か知っていますか?
多くの場合、「スケソウダラ」というタラが使われているはずです。スケソウダラは日本の海域でも獲れますが、数量も多くなく、価格的にも安価なかまぼこには向かないので、北米のアラスカ沖、ベーリング海で漁獲されています。
原発事故後、多くの人から「福島県産のかまぼこには、福島の魚介類がノーチェックで使われているのではないか」という声が寄せられました。地元の魚を使ってかまぼこを作っているメーカーも国内には数多くありますので、きっと「地元の港に水揚げされる魚で作られる」と思っていらっしゃったのでしょう。