世間の価値観と一致することが“いい人生”ではない

一流大学を出て、有名会社に就職して、三〇代で年収一〇〇〇万円を目指す。“いい人生”とは、そういう人生だと思っている。そんな人がまだまだ多いようだ。

菅原圭『ものごとに動じない人の習慣術(新装版) 冷静でしなやか、タフな心をつくる秘訣』(KAWADE夢新書)
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もちろん、そうした人生を否定するわけではないが、いい人生とは毎日が心地よく過ぎていくことが大原則だ。

これまでも書いてきたが、世間や社会の価値観は、無視していいわけではないが、それをそのまま、自分の価値軸にしてしまうと、どこかに違和感を覚えるポイントに突き当たることがある。

俳優の香川照之さんは、人もうらやむ東大卒。最近では東大在学生のタレントも珍しくないが、香川さんが俳優になるころは、「せっかく東大を出ているのに」という目がなかった、といえばウソになる。

東大を出て、一流会社に就職して、いいポストについて……。おそらく、香川さんの周囲でも、そういう期待は大きかったのではないだろうか。香川さんは、歌舞伎役者の市川猿之助さんと元宝塚のトップスターだった女優・浜木綿子さんのあいだに生まれた。幼いころ、両親が離婚。香川さんは浜さんの手元で成長した。

そういう環境だからこそ、東大に進学した自慢の息子が俳優になると言い出したときは、浜さんは相当悩み、なんとか、息子の俳優志望を変えさせる方法はないか、と親しい人に相談したらしい。

だが、香川さんは、自分を貫いて、俳優の道を選んで突き進んでいく。その本当の動機の底には、彼の東大コンプレックスがあったと知って驚いた。

学歴コンプレックスを抱えていた香川照之

あるとき、香川さんがテレビでこういっていたのだ。

「ぼくは、東大にいったことがずっとコンプレックスだったんですよね」

えっ? と驚く人も多いだろう。香川さんの話によると、母子家庭に育った香川さんは、小さいころから、周囲の期待や視線に敏感に応じてしまうタイプだったそうだ。「勉強をして、いい成績をとってくれば、周囲は喜ぶ」。そうした周囲の期待に応えていれば、ほめられ、喜ばれ、それなりに居心地は悪くない。

だが、香川さんは自分を押し殺して、まわりの目に応えてしまう自分が卑怯なような気がして、ずっと自分を許せなかったというのである。

一流大学、有名会社コースを歩むことにこだわり、それを実現した人のなかには、それ以外の視野をもてない人、それさえ満たせばよいと思っている人がいる。しかし、正直にいって、こういう人は、精神的に未成熟であることが多く、人間的に強く引かれることはむしろまれだ。

エリートが悪いといっているわけではない。価値観が硬直していることに問題があるのだ。こういう人は、自分の価値軸の基本が自分自身ではなく、世間や社会だから、もっとも気になるのは、世間や社会がどう思うか、ということだ。

その結果、たえず人の顔色をうかがっていないと安心できず、ちょっとしたことにも心が揺れ動いてしまう。

いつも平常心をもって生きていく。その原点は、自分の価値軸をしっかりもち、大事なことだけしっかり押さえ、それ以外のことは、どうでもいいと言い切ってしまう姿勢をもつことだ。

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