トヨタ自動車は新しい経営理念となる「トヨタフィロソフィー」をつくり、トヨタのミッションを「幸せを量産する(幸せの量産)」とした。この言葉の裏には、どんな意図があるのか。経済ジャーナリストの安井孝之氏は「これまで作成された経営理念を時代に合わせて新しくまとめたもので、今後のトヨタを考えるうえで非常に重要だ」と指摘する――。
新型MIRAI
撮影=安井孝之
新型MIRAI

「究極のエコカー」と呼ばれるが、国内シェアは0.02%

トヨタ自動車は昨年12月9日、「究極のエコカー」と呼ばれる水素を燃料とするFCV「新型MIRAI」を発売した。2014年に市販FCVとして世界初で発売した初代MIRAIに比べ、スタイルは洗練され、航続距離(約850キロ)とパワーを向上させた。エコカーとしての魅力だけでなく、クルマとしての魅力を高めて、普及を目指したいという思いが、新型には込められた。

この新型MIRAIの発表会でトヨタの前田昌彦・パワートレインカンパニープレジデントが訴えたのは「もっと普及させる」ということだった。そのために初代に比べ生産能力を10倍(年産3万台)に上げ、「社会を支える様々なモビリティへの転用を目指す」と語り、FCVの心臓部である燃料電池システムの「外販」に努めることを強調した。

その際に付言したのも「幸せの量産」だった。燃料電池システムの外販と「幸せの量産」はどうつながるのか。少し説明が必要だ。

「究極のエコカー」と呼ばれるFCVではあるが、現在、日本で売られているのはトヨタのMIRAIとホンダのクラリティ(リース販売)の2車種。FCVの国内販売シェア(2019年度)はわずかに0.02%(約700台)と苦戦が続いている。価格が高いことと水素ステーションの整備が遅れていることが理由である。

「量産効果」でコストは初代の半分以下に

価格を引き下げるとともに、ステーションが増えなくてはFCVの普及はままならない。メーカーとして主体的に取り組めるのは価格の引き下げである。新型では燃料電池システムを高性能・小型化を実現するとともに製造段階の生産性を格段に引き上げた。それでも生産台数が増えない限りは、期待される量産効果による価格引き下げは実現できない。そこで出てきた考え方が燃料電池システムの外販である。

トヨタは新型MIRAIの発売に際して、虎の子ともいえる燃料電池システムをトラックやバス、重機のメーカーに外販し、FCVトラック・バスなど商用モビリティを積極的につくってもらう戦略を本格的に打ち出したのだ。乗用車の枠を超えて燃料電池システムの導入を広げることで、中核システムの量産化を実現し、コスト低減につなげることを目指す。この量産効果も含めると、生産コストは「大幅に下がる」(前田プレジデント)といい、燃料電池システムのコストは初代の半分以下になるとみられている。

今回の「外販」は中核システムをとにもかくにも量産し、価格低減を図り、「究極のエコカー」であるFCVを普及させる、という強い意志の表れである。それは「幸せの量産」というミッションを果たすことにもなる。