トヨタとLIXILが共同開発した「モバイルトイレ」

新型MIRAIの発売から3週間近く前の11月下旬、横浜市で開かれたイベント会場に一風変わったトイレが設置された。車いすを使っている人が外出先でも快適に利用できる移動型バリアフリートイレ「モバイルトイレ」が初めてイベント会場に現れた。トヨタとLIXILが共同開発した。

モバイルトイレと車いすユーザー
撮影=安井孝之
モバイルトイレと車いすユーザー

車いすで移動している人にとって外出先でのトイレ探しは難題である。オフィスビルや商業ビルには最近ではバリアフリーの多機能トイレが設置されることが多くなったが、野外でのイベント会場などでは整備が遅れている。障害者が気軽に野外イベントに参加できる状況には至っていないのが実情なのだ。

そんな社会課題を改善しようとトヨタの社会貢献推進部が動いた。自動車メーカーのトヨタは移動型のトイレの外枠をつくるのはお手の物だが、トイレ自体の製造には疎い。住宅設備メーカーのLIXILに協力を求めたのが2019年9月だった。共同開発が本格化したのは2020年1月からで、入社4年目のトヨタ試作部の板野美咲さんらがモバイルトイレの担当となった。

LIXILグループの中でトイレ設備を作っているのは旧INAXで、その開発部門は愛知県常滑市にある。板野さんの豊田市と常滑市との行き来が始まった。車いすユーザーや福祉工学の専門家などにもヒヤリングし、詳細が固まっていった。板野さんは「試作部では部品の製作に従事し、エンドユーザーの声を聞く機会はあまりない。今回の開発ではエンドユーザーの声を聞き、つくり上げる大切さを学びました」と話す。こうした試みも「幸せの量産」への一歩となる。

モバイルトイレ内部
写真提供=トヨタ
モバイルトイレ内部

利益追求だけでは「市場」からは評価されない時代

企業活動にとって企業の存在意義を問うビジョンやミッションをまとめた経営理念はなくてはならない。経営理念が蔑ろにされると、ともすれば売上高や利益だけをあげていれば経営は安泰、となりがちだ。だが今はSDGs(持続可能な開発目標)が重視され、それぞれの会社がどのように社会課題の解決に挑んでいるかが問われる時代である。

利益を上げることはSDGsを実現するにはもちろん必要だが、利益追求だけでは消費者を含めた「市場」からは評価されない時代となったのである。ましてや個人も企業も持続可能性が揺らいでいるコロナ禍ではなおさらである。

トヨタが「SDGsに本気で取り組む」と2020年5月に表明し、11月の中間決算の説明会の場で10月に社内でまとめた新しい経営理念「トヨタフィロソフィー」を披露した。その場で「幸せの量産」をミッションとして表明したのは、企業が今の時代に目指すべき道を考えれば必然であった。