2000年前後には「拡大路線」に傾斜、リーマンで躓いた

2009年に豊田章男氏が社長に就任し、2021年で12年となる。2011年に「もっといいクルマをつくろうよ」と豊田社長が語り始め、トヨタの体質を変えようとした。当初は「これまでもいいクルマをつくっていたのではないか。何をいまさら」と批判する声もあり、評判は必ずしも良くはなかった。だが在任期間が10年を超えて、企業体質の変化はたしかなものになりつつある。

今回、トヨタは「幸せを量産する」というミッションを掲げたことで、今後はその息の長い実践が問われることになる。

トヨタには1935年に定めた「豊田綱領」という経営理念がある。「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」「華美を戒め、質実剛健たるべし」といった5カ条からなる。だが、そこから離れ、2000年前後には販売台数や利益をひたすら追求する拡大路線に傾斜した時期があった。

トヨタフィロソフィー
画像提供=トヨタ
トヨタフィロソフィー

その拡大路線は、リーマン・ショックで大きく躓いた。経営理念は経営者が交代したり、業績が浮き沈みしたりして、徐々に忘れ去られてしまいかねないものである。それは多くの企業の歴史をみれば否定できない事実である。

「出した利益を何に使うのか、だれのために使うのか」

11月の中間決算説明会でトヨタフィロソフィーに書き込んだ「幸せの量産」は長期にわたって持続できるのか。筆者はその覚悟を聞いた。

写真提供=トヨタ
豊田章男社長

豊田社長はこう答える。

「フィロソフィーは決してゴールではない。スタートポイントだと思っている。今後、状況が変わり、次のトップが悩んだ時に、羅針盤として活用してもらえればいいと思っている。利益を追求することは悪いことではないと思う。出した利益を何に使うのか、だれのために使うのか、そういったことを理解した人間をつくっておくことが大事なのではないかと思っている」

つまりは経営者だけでなく社員が自分の血肉となるように経営理念を理解して、迷った時には理念に戻って考えられるかどうかが大切なのだ。問題は、そこまで経営理念を役員、社員みんなにどう徹底できるかどうかだ。