鱗滝の「母性」を描くアニメ版独自の演出
そして、アニメ版には原作にないシーンが入ります。岩を斬り、全ての修行を終えた炭治郎を、鱗滝は手作りの料理で労うのです。鮎の塩焼きとキノコ汁がとてもおいしそうです。料理を作り、それを労うという、原作にあった鱗滝の母性的な優しさをさらに強化する描写。
これによって、「極めて厳しい修行をさせる男」(父性)だけではなく、「影から温かく見守る優しさ」(母性)を持った「育手」であることを表します。鱗滝が父性と母性、「厳しさ」と「優しさ」の両方を持つ、魅力的な人間として私たちに迫ってくるのです。そして同時に、人を育てるためには「父性」と「母性」の両方が必要なのだということを伝えています。
苦悩する炭治郎を救った一人の少年
炭治郎が岩を斬れたのは、自分一人の力ではありませんでした。毎日、厳しい修行を続けるものの、半年たっても岩を斬れずに苦悩する炭治郎の前に、ある日、一人の少年「錆兎」が現れます。
錆兎は真剣の炭治郎に木刀で襲いかかり、言います。「鈍い。弱い。未熟。そんなものは男ではない」と。
木刀で、炭治郎をボコボコにする錆兎。「男なら、男に生まれたなら、進む以外の道などない!」
打ちのめされる炭治郎の前に、笑顔が可愛らしい少女「真菰」が現れます。彼女は、炭治郎に寄り添い、悪いところや無駄な動き、癖を細かく指摘してくれました。そして、強くなるために絶対に必要な「全集中の呼吸」のコツを炭治郎に詳しく教えるのです。
半年間、錆兎にボコボコにされながら、それでも勝てない炭治郎。ある日、いつも木刀だった錆兎が真剣を持って現れます。炭治郎と錆兎の真剣勝負。一瞬で勝負はつき、炭治郎の刀は錆兎の面を斬りました。しかし実際は、巨大な岩を斬っていた……のです。
父性的な厳しい指導の「錆兎」、母性的な優しい指導の「真菰」。この父性と母性のバランスのとれた指導によって、炭治郎は大きく成長し、最初は不可能と思われた「岩を斬る」ことを現実にしたのでした。