強烈な父性キャラ、鱗滝左近次
『鬼滅の刃』で、炭治郎以外に父性的なキャラクターを挙げろと言われたら、迷わず挙げたいのが「育手」鱗滝左近次でしょう。
鬼殺隊・水柱、富岡義勇の導きで鱗滝の元を訪れた炭治郎。炭治郎は鬼と戦い、鬼は斧で木に磔にされます。鬼を殺せず「どうしたら、止めをさせますか?」と迷う炭治郎に、鱗滝は「人に聞くな。自分の頭で考えられないのか」と突き放すような一言を放ちます。
鬼殺隊に入るための選別試験を受けられるよう、鱗滝の指導で修行を始める炭治郎。
鱗滝は、山の上まで炭治郎を連れて行き、こう言います。「ここから、山の麓の家まで下りてくること。こんどは、夜明けまで待たない」。「えっ、それだけ?」と炭治郎は思いますが、すでに鱗滝の姿は、そこにはありません。
そして、狭霧山に来て1年後、鱗滝は突然言葉をかけます。「もう教えることはない」。炭治郎の身体よりもはるかに大きい岩をさして、「この岩を斬れたら“最終選別”に行くのを許可する」と言います。
「鱗滝さんは、それから、何も、教えてくれなくなった」。炭治郎は、その後、1年以上も、完全に放置され、自力で修行を続けるしかありませんでした。
重要なシーンで見せた意外な一面
鱗滝は手取り足取り教えない。「自分で考える」「自分で切り抜ける」と徹底的に突き放した、父性的な指導を行います。これぞ、父性! 父性的な指導の究極系と言ってもいいでしょう。必要なことは、全部教えた。あとは自分で考えろ。人に頼るな。その厳しさが、人を育てる。それは、ものすごく冷徹で冷たいようにも思えますが、そうではないのです。
のべ2年をかけて、ついに岩を真っ二つに斬った炭治郎に鱗滝は言います。
「よく頑張った。炭治郎、お前は凄い子だ……」
一切の手出しをすることなく、炭治郎を見守り続けた鱗滝の父性愛を感じるのです。手取り足取り、丁寧に教えるだけが教育や指導ではないのです。自分で考え、自分で限界を突破する力は、こうした厳しい指導からしか育たない。
このシーンですが、「圧倒的な厳しさ」を持つ鱗滝としては、かなり意外な一面を見せます。炭治郎を抱き寄せ、頭をなでなでするのです。
「お前を最終選別に行かせるつもりはなかった。もう、子供が死ぬのを見たくなかった」。「断ち切る」「手放す」「社会に出す」は父性、「抱え込む」「包み込む」「家に留める」は母性。「手放したくなかった」という鱗滝のこの言葉は、非常に母性的です。