多くの関係者を驚かせた「全国一律」の一時停止

菅義偉首相は12月14日、「Go To トラベル」を全国一律に一時停止すると発表した。専門家が集まる政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、東京都などの感染拡大が目立っていた地域発着の旅行を対象から除外するように求めており、一部地域の一時停止は予想されていたが、「全国一律」というのは多くの関係者にとって驚きだった。

デジタル・ガバメント閣僚会議で発言する菅義偉首相(右)。左は平井卓也デジタル改革担当相=2020年12月21日、首相官邸
写真=時事通信フォト
デジタル・ガバメント閣僚会議で発言する菅義偉首相(右)。左は平井卓也デジタル改革担当相=2020年12月21日、首相官邸

報道では、国土交通省関係者の話として「菅首相が12月14日午後6時半過ぎに発表した時点では、観光庁の課長級には全国一律の停止の方針は伝わっていなかったとみられる」としており、担当の観光庁ですら寝耳に水の決定だったようだ。

いったい誰が菅首相に「全国一律」の一時停止を進言したのか。多くの関係者は首相補佐官の和泉洋人氏だろうとみる。和泉氏は国交省(旧建設省)の出身で、安倍晋三内閣発足直後の2013年1月から補佐官を務めてきた。

安倍政権時代の官邸官僚としては首相補佐官兼秘書官だった今井尚哉氏が絶大な力を握っていると言われてきたが、和泉氏は当時から官房長官の菅氏に近いとされていた。菅氏が首相になって、首相を支える存在になっている。

政治主導で動く「Go To トラベル」

和泉氏が「全国一律」一時停止を主導したとすれば、出身母体の国交省が知らないわけがなさそうなものだ。ところが、観光庁長官の蒲生篤実氏と和泉氏ら官邸官僚は意思疎通ができていない、という。

というよりも、蒲生氏が国交省でも総務畑や企画畑が長かったこともあり、観光行政に明るくないことから、官邸が相手にせず、当初から「Go To トラベル」は官邸主導、政治主導で動いているという事情がある。

10月に宿泊予約サイトで割引率が下がる問題が発生したが、この時も観光庁は旅行業者からの苦情を放置し、国交相や官邸に報告しないという失態を演じた。その時も和泉氏が問題を把握したのは旅行業者に関係する別の省庁OBからの情報だったとされ、観光庁は和泉氏の信頼を完全に失っている。そんな「人間関係」が菅首相の「目玉政策」の変更決定で、観光庁が蚊帳の外に置かれる原因になったとみられる。