「デジタル庁」は業務フローを変えられるか

菅首相が目玉として掲げる「デジタル庁の新設」の成否は、こうした仕組みをデジタル・ツールを使って整理できるかどうかにかかっているとも言える。菅首相の言葉で言えば「縦割り行政の打破」ということになるが、省庁の壁を越えて情報が共有され、明確なプロセスで政策案を決定していくことが、実はデジタル化の本質なのだ。いわゆるDX(デジタル・トランスフォーメーション)である。

デジタル庁は、2021年の秋に向けて設置準備が進んでいるが、霞が関の仕事の仕方、業務フローを変えられるかどうかが焦点になる。12月22日に自民党政務調査会のデジタル社会推進本部が、デジタル庁の業務について「提言」をまとめ、菅首相に申し入れを行った。その中にも、霞が関の仕事の仕方について触れた部分がある。

「公務員の労働環境におけるIT投資は、職員の意欲と能力を最大限に引き出し、ひいては社会全体の生産性の飛躍的な向上にもつながる投資であることを再認識すべきである。また、業務改革・デジタル化への理解を深め、その考え方の下、働き方改革やワークライフ・バランス等の方針にも沿った形で業務を遂行するための必須条件でもある。さらに、多様で柔軟な働き方の実現(在宅勤務、モバイルワーク、フレックスタイム、フリーアドレスオフィス、ウェブ会議の活用促進)、ペーパーレス化、非対面化、文書管理の効率化、内部事務作業の効率化、内部共通事務のシステム化を進めることで、従来の業務工程の刷新を図ることが必要である」

メールマーケティングの概念
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです

メールやSNSを使わない理由は「セキュリティー」だった

民間企業ならば当たり前のことだが、改めてデジタル化の意義を示すところから始めないと、霞が関は変わらないという事情が伺える。

さらに具体策が並んでいるが、そのいくつかを抜き出してみよう。

・チャット等コミュニケーションツールの整備
・資料等を同時編集可能なコラボレーションツール
・国と地方公共団体との連絡等を一元的に行う行政情報連絡ポータル
・組織によってバラバラに設定されている職員ID、業務ID等の統一化、共有化
・霞ヶ関の深夜勤務の要因となっている国会答弁作成を効率化し、様式の微調整や印刷等を不要とするweb上で完結可能な答弁作成ツール

メールやSNSを使わないのは「セキュリティー」が理由とされてきた。自宅に持ち帰れるパソコン端末がごく少数のため、霞が関の幹部官僚は基本的に在宅勤務ができない。メールでパスワード付きファイルを送り、パスワードを別送する方法が長年採られてきた。これも今やメールのセキュリティー技術の進歩からほとんど意味がないにもかかわらず、慣例として定着していた。さすがに11月末に平井卓也・デジタル改革担当相が内閣府、内閣官房で廃止することを発表した。