「ひとりで母をあとどれくらい看ないといけないのか」

ケース1:
実家の関西で86歳の認知症の母親をワンオペ介護する62歳息子
高齢者
写真=iStock.com/sh22
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剛さん(仮名62歳・無職)は近畿地方出身だが、就職以降は都内で働き、千葉県でマンションを購入。パート勤めの妻(58歳)と社会人の息子(30歳)との3人暮らしである。

故郷で1人暮らしをしていた剛さんの母親(86歳)に異変が起こったのは、2020年3月下旬。突然、警察から、母親を保護しているという電話を受けたという。

急ぎ、故郷に駆け付けた剛さんは、近所の人からこう聞いて愕然とした。

「ここ1年ほど、おばあちゃんはゴミの分別方法や収集日がわからなくなっているようで、心配していたんだよ。夜中に散歩していることもあるので、見かけたら連れて帰っていたが、もしかすると認知症が進んでいるかもしれない」

剛さんは母親に対しては、この1年は盆暮れに帰ることもなく「大丈夫か?」という安否確認の電話を時々入れる程度で、正直、母親の変わりようにショックを隠せないでいる。

「気丈な人ですし、電話では全然、普通にしゃべるんで、全く気が付きませんでした」

剛さんは緊急事態宣言を受け、自宅と母宅(実家)を自由に行き来することが叶わなくなったこともあり、再雇用で働いていた都内の会社を辞し、現在は母と同居している。

「母と妻は折り合いが悪かったので、妻がこちらに来る、または自宅で母と同居するって選択肢はないんですよ。妹がいますが、同居する姑さんのめんどうで手一杯ですし、自分がやるしかないんですよね」

母親の介護認定は要介護2。比較的費用がかからない特養は要介護3以上が入所基準になることと、他の高額な施設費用は出せないこと、なにより母親自身が自宅での暮らしを強く訴えていることが母宅での同居を選んだ理由だ。

「なんとかやっていますが、この生活も限界かなって思います。最近ようやくデイサービスが再開したんですが、母は頑なに行きたがりません。『お遊戯をやる暇はない!』って。もちろん、ケアマネたちが説得してくれてはいるんですが……。それに、時間感覚がなくなるらしく、昨日も夜中に『予約をしたから美容院に連れて行け!』と騒がれて、思わず怒鳴ってしまいました。怯えている母を見ると罪悪感しかありませんし、一方で、今やほとんど知る人もいないというこの土地で、ひとりで母をあとどれくらい看ないといけないのかと思うと、やるせなくなるんですよ」