在宅勤務は「幸福度」が低い?
回答者の幸福度と片道通勤時間の関係を示したのが以下のグラフです(図表4)。幸福度は、回答者本人に「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点として選択してもらい測定しています。
このグラフでは、在宅勤務者と片道通勤時間90分以上の人が、他の通勤時間の人よりも幸福度が低いという傾向が示されています。(ただし、このグラフはY軸の下限を5.8で切っていますので、実際の幸福度の差はこのグラフの見た目ほどに大きくはなく、6点から7点の間にすべて収まっていることに注意してください)。
一見、在宅勤務の労働者のほうが、通勤している人よりも幸福度が低いように見えます。
しかし、在宅勤務をしている人について他の属性(特徴)を調べたところ、「通勤している労働者に比べて健康状態が悪い」という傾向があったのです。
この手の分析で大切なのは「みせかけの関係性ではないか」という視点をもつことです。単純に幸福度と通勤時間だけの2つの関係性を見て判断すると、「在宅勤務は不幸だ」という結論にたどり着いてしまいますが、「在宅勤務で幸福度が低い人は、在宅勤務のせいではなく、健康状態が悪いせいで幸福度が低いのではないか」という仮説が立ちました。
そこで、通勤時間と幸福度の両方に影響を及ぼす可能性がある「健康状態」「通勤手段」「年収」「性別」「年齢」「婚姻状況」の項目をコントロール(通勤時間と幸福度の関係に影響を及ぼさないように統計的に処理)したうえで、「線形回帰モデル」というモデルを使って幸福度と通勤時間の関係を分析しました(図表5)。
グラフでは、「在宅勤務」と、「片道の通勤時間が10分以内の人」の幸福度には「大きな違いがみられない」ことが示されています。そして「在宅勤務ではない人については、通勤時間が長くなるにつれて、幸福度が低くなる傾向がある」ことがわかりました。
つまり、「在宅勤務は(先ほどコントロールした)『健康状態』『通勤手段』『年収』『性別』『年齢』『婚姻状況』に関係なく労働者の幸福につながる、オールマイティにホワイトな制度」であるということをこの結果は示しています。
若者が「マイノリティ化」している日本
この分析結果は、日本のように、出社にこだわった、心にも体にも優しくない働き方を堅持することにどんな意味があるのかという疑問を私たちに突きつけます。
筆者は人口動態の専門家ですが、日本の人口は極端に高齢者が多く、若年層が「マイノリティ化」しているという危険な構造を示しています。
日本の乳幼児人口は、もはや団塊世代(70代前半人口)の約3分の1、団塊ジュニア世代(アラフィフ人口)の2分の1未満、というシビアな状況です。
社会保障費のかかる高齢者に比べて、社会保障費の財源となる労働人口が極端に少なくなっていく人口構造のため、現在中年以上の男女は、「老後は若い人に頑張って支えてもらいましょう」といえる状況には全くないのです。自分の老後は自分で守るしかありません。
長く健康に働ける環境を維持することは、国家的な課題だといえるでしょう。コロナはある意味、人口が消えゆく日本に、「最後の改革」を迫っているのかもしれません。