【乙武】ただ同時に、自分は当時22歳だったんだけど、今後も、そのやり方一辺倒でいいのかなと。自分自身のキャラクターを考えても、なんか違うアプローチをする人間が出てきてもいい時期なのかなって思ったんだよね。

【岸田】間違いない!

【乙武】だから、いまでも権利主張型の活動をする方に対するリスペクトは持っている。同時に、自分には「なんか破天荒なやつ出てきたな」という見られ方のほうが合ってるのかなと考えているのね。だから、いまの岸田さんの話はめちゃくちゃ共感できるなあ。

人は物語を選べたほうが幸せ

【岸田】ありがとうございます。私、人は物語を選ぶことができたほうが幸せだと思っています。世の中に物語は、たくさんあるんですよ。

乙武 洋匡、杉山 文野『ヒゲとナプキン』(小学館)
乙武 洋匡、杉山 文野『ヒゲとナプキン』(小学館)

障害のある人だったら、たとえば20年前は『五体不満足』という物語が一番有名だったから、「ああならないといけない」と思っていた人もいるかもしれない。その人はなれなくて辛かったかもしれない。

でも、いまはnoteとか、YouTubeとかでいろんな人の物語に接することができるし、自分でも発信できる。このことは、すごくいいことだと思っていて、乙武さんの小説『ヒゲとナプキン』も、その一つです。LGBTQの人が生きる新しい物語になりますよね。

【乙武】そうだよね。でも、岸田さんはいま発信側として、どんどんその影響力が大きくなっている。自らの存在を知られれば知られるほど、返り血を浴びることはない?

執着しないことを決めた

【岸田】あります。言葉のコントロールができないところまで、言葉が飛んでしまうことがあります。ツイッターでリツイートが1万人を超えてくると私のことをまったく知らない人の目にも届く。書かれている言葉だけをとられて、つつかれたりとか、嫌われたり。本文を読んでないのに、そこだけ見て「なんだこの女は」と言われることも結構あって、正直、きついなと思ったんです。

ただ、自分の力でそうした状況を変えることは難しいから、自分が変わっていこうと思ったんです。執着しないということを決めたんですよ。

【乙武】執着しない?

【岸田】知らない人まで言葉を届けるの諦めるかわりに、たとえばnoteで、会員の人しか読めない記事を書くということです。

基本的には、私の言葉を信じて応援してくれる人だけに届けていくというスタイルです。あとは、ノンフィクションだけを書いていると、自分の過去を切り売りしていくのが、たまにつらくなる。これからはフィクション、小説を書いていこうと思っています。

【乙武】お! 楽しみ!

【岸田】なので、これからはライバルでございます。

【乙武】あらら。なんだかすごいライバルがでてきちゃったなぁ(笑)。みなさん、今後は岸田さんの小説も楽しみにしていただければと思います。(つづく)

【関連記事】
一時間かけてブラジャーを試着したら、黄泉の国から戦士たちが戻ってきた
父が死んで、母が倒れて、障害のある弟とふたりで過ごして、私は作家になった
真夏の甲子園で「日本一ホットコーヒーを売った女」がやったこと
不倫されても離婚しない「瀬戸大也、渡部建、宮崎謙介」妻たちの言い分
「円周率とは何か」と聞かれて「3.14です」は大間違いである