車椅子生活を送る母やダウン症の弟との日常を綴った『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が話題を呼んだ作家・岸田奈美氏は、「死にたい」と泣く母に「死んでもいいよ」と返したことがあるという。その本音を、対談した『五体不満足』著者の乙武洋匡氏が聞いた——。(第1回/全2回)
岸田奈美氏(左)と乙武洋匡氏
写真提供=小学館
岸田奈美氏(左)と乙武洋匡氏

母は病気で下半身麻痺、弟はダウン症をもつ一家

【乙武】岸田さんと初めてお会いしたのは、昨年の今頃かな?

【岸田】そうですね。乙武さんが、義足プロジェクトについて書いた『四肢奮迅』(講談社)に関するインタビューをやらせていただきました。めっちゃええ本でした。

【乙武】ありがとうございます。岸田さんも大活躍ですね。新刊『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』がすごい評判。

【岸田】ふふふ。長いタイトルだから、覚えられない方がいらっしゃって、朝日新聞とか大きな新聞の広告に載ったときは、書店に「家族愛の本ください」とか、「『愛していると言ってくれ』の本ください」とか。帯を阿川佐和子さんが書いたので「阿川佐和子さんの本ください」とか。

【乙武】だいぶ変わってきた(笑)。当然、家族についての本を書いているわけですが、少し家族の紹介をしていただいてもいいですか。

岸田 奈美『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)
岸田 奈美『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)

【岸田】はい。まず、お父さんがおりまして、私が中学2年のときに突然死している。心筋梗塞でした。中学2年生のときは思春期なので、亡くなる前日まで大げんかしてしまって、「お父さんなんて嫌いや、死んでまえ」というのが最後の言葉でした。私にとって後悔の対象です。

次にお母さんですが、私が高校1年生のときに、大動脈解離という、大きな病気をしてしまって、その手術の後遺症で下半身が完全に麻痺してしまいました。いま、車椅子で生活しています。

最後に弟です。生まれつきダウン症、つまりは知的障害があります。

“お通夜状態”より、楽しいことを伝えたかった

これだけだと、すごい大変な女の子みたいに言われることがあるんです。

自己紹介をするたびに家族の話にさしかかるとお通夜状態なんですよ。飲み会とか合コンとかでもそうなってしまうので、もう何度も自分で言うの嫌やなあと思った。もちろん苦しいこととかつらいこととかたくさんあった。でも、それよりも、家族といてすごく楽しいということを伝えたいんです。

私の家族の素敵なところ、愛してるところをもっとおかしく面白く伝わってほしいと思って書き始めたエッセイが、この本です。

【乙武】なるほどね。まあ俺もこういう体で生まれてきたから理解できるのは、勝手に周囲が不幸を押しつけてくることだよね。

「なんか本当に境遇が、ううっ……」という具合に、勝手に言葉を詰まらせてしまう。こちらとしては、いやいや、そんなでもないよ、という感じなんだけど。

【岸田】「かわいそう」と言われると、向こうは励ましたつもりでも、こちらとってはどんどん呪いのようになってくる。「あ、私、かわいそうなんだ」とか「不幸でいなきゃだめなんだ」というふうに。不幸でいることに慣れちゃうのがよくないなって思ってます。