あきらめムードも急転直下「これはいける!」となったワケ

慈さんを含む「摩耶山再生の会」、松本社長の「みなと観光バス」、そして「神戸市・灘区」の三者による「まやビューラインアクセス向上委員会」が発足。まずはみなと観光バスによる、地域住民へのアンケート調査が行われた。正直な話、それほど期待感は大きくなかったようだが、その結果は予想を覆すものだった。

「調査の結果を見て『これはいける!』と考えを改めました。驚いたのはアンケートの回収率です。1万2000件の配布に対して回収率42%と、この手の調査としては非常に高く、地元の協力体制と当事者意識が強いことがわかりました。さらに驚いたのは、データを細分化したエリアごとの家族構成や職業、所得、移動手段などを細かく分析していくと、想定以上に、『地元の商店街(水道筋商店街)への足』の潜在ニーズが見えてきたことです。自由回答欄にもコメントがぎっしり書き込まれていて、『自分たちの足をつくって守っていきたい』という熱意が感じられました」

地域住民が日常の足として乗ってくれて、かつ摩耶山への観光客の需要が取り込めれば、コミュニティバスとして採算がとれるという結論に達した。

実際にみんなで街を歩いて運行ルートを決めた

次に、着手したのは運行ダイヤとルートの選定だ。慈さんは語る。

「ダイヤは(山上へ通じる)摩耶ケーブルのダイヤに合わせました。20分間隔でわかりやすく、バスを降りたらすぐケーブルカーに乗れるようにするためです。みなと観光バスからは2台体制での運行という条件だったので、アンケート調査結果を踏まえつつ、ダイヤが成立するルートを、アクセス向上委員会のメンバーで実際に歩いて決めていきました。通りが細かく分かれている地域なので、バス停にはそれぞれの通りの名前を入れて、愛着を持ってもらえるように工夫しました」

坂バス路線図。
資料提供=みなと観光バス
坂バス路線図。

当時、神戸市企画調整局から参画した益谷ますたに佳幸さん(53歳)は振り返る。

「バス停は住宅の前や商店街のアーケードの中など、通常は設置しない場所にもあります。バス停の設置箇所をどこにするかは、住民の方の理解が欠かせません。そこは慈さんをはじめ、自治会や婦人会、商店街などの皆さんが(バス停近辺の住民などに)粘り強く交渉してくれました。警察の許可を得るのは、事業者となるみなと観光バスの仕事。神戸市や灘区は、社会実験の際の広報活動や、まとめ役を担当しました」

ルートについては、みなと観光バス社内でも喧々諤々だったという。松本さんは語る。

「運転手たちからは難色を示されました。もともと道が狭いため、車一台がすれ違うのも大変な場所があるし、何といっても急勾配。そして商店街のアーケードの中も走ります。近畿圏内ではここだけで、見た目のインパクトもありますが、運転する方は大変ですよ(笑)」

そのため坂バスには、社内でも経験豊富で技術の高い運転手が選抜されている。

水道筋・灘中央筋商店街を通る坂バス。
撮影=筆者
水道筋・灘中央筋商店街を通る坂バス。