自治体が運営する「公営バス」が赤字となることが多い中、補助金ゼロの「民間運営」にもかかわらず黒字を達成できたコミュニティバスがある。2013年に運行開始した神戸市灘区の路線バス「まやビューライン坂バス」だ。その発足と維持には“灘愛”に溢れた地元有名デザイナーや、地域活性化に打ち込む元商社マンのバス運行会社社長らの尽力があった――。
「日本三大夜景」の山を愛する神戸市民が死守する「坂バス」の話
「タンタンが乗っています」
兵庫県神戸市のJR灘駅前は、大きなパンダのぬいぐるみを乗せたコミュニティバス「坂バス」の出発地だ。近隣の王子動物園(神戸市)にちなみ、車体には、パンダが乗っているというステッカーが貼られた愛らしさがトレードマークだ。
灘駅と日本三大夜景で有名な摩耶山のふもとにある「摩耶ケーブル下」を結ぶ路線バス。通常、こうしたコミュニティバスは「地域住民の生活の足」を第一義とするものが多い中、この坂バスの当初の目的は別のところにあった。
地元の自治体からも一目置かれる54歳デザイナーの正体
「坂バスは、地元の人にもっと摩耶山へ行ってほしいという思いから生まれました」
そう語るのは、神戸市灘区でまちの魅力を発信し続けるデザイナー、慈憲一さん(54歳)だ。大学進学時に、生まれ育った灘区を離れたが、1995年の阪神・淡路大震災を機に帰郷。
本業の傍ら復興支援に携わり、灘区の歴史や地形、そこで暮らす人たちの魅力を伝える数々のイベントを手がけている。“灘愛”をテーマにしたフリーペーパー「naddism(ナディズム)」、メールマガジン「naddist(ナディスト)」を発行し、その溢れだす灘愛から、いつしか本人が「naddist」と呼ばれるようになる。 あまりにも灘区に詳しいことから、行政からも一目置かれている稀有な存在だ。