米大統領選でトランプ大統領は対立候補の民主党バイデン元副大統領を「ウクライナ疑惑」で攻め立てていた。大統領選の雌雄が決しても、共和党がこの問題を追及しつづけることは間違いない。そうなると——。
2020年11月7日、デラウェア州ウィルミントンで、息子のハンター・バイデン氏に抱かれた孫にキスをする米次期大統領ジョー・バイデン氏。
写真=AFP/時事通信フォト
2020年11月7日、デラウェア州ウィルミントンで、息子のハンター・バイデン氏に抱かれた孫にキスをする米次期大統領ジョー・バイデン氏。

反露派バイデン氏就任でウクライナ問題での対立が再燃する

米大統領選でジョー・バイデン民主党候補の当選確実が発表された後、敵対するロシアとウクライナの反応で明暗が分かれた。ロシアのプーチン大統領が「法的な決着を待つ」として祝意を表明しなかったのに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は早々と祝電を送り、「戦略パートナー関係の発展」を訴えた。

バイデン氏はロシアを「米国の安全保障に最大の脅威」とみなす反露派。その一方で、バイデン氏は副大統領時代にロシアと敵対するウクライナを6回も訪問し、肩入れしてきた。新政権下でウクライナ問題をめぐり、米露が再び対峙する展開も考えられる。

バイデン氏は一時期、ウクライナのロビー外交も展開していた。

実は、日本外交もこのバイデン氏の行動とは無関係ではなかった。

オバマ政権下では、北方領土問題の交渉進展に期待を寄せてロシアに接近していた安倍政権にも足かせをはめていたが、そこにいたのが、当時のバイデン副大統領だった。

「モスクワに侵略の代償を血と金で支払わせる」行動を主張

典型的な東部エリートのバイデン氏は、30歳から36年間上院議員を務め、終始外交委員会に属した。専門は欧州情勢と軍備管理問題で、ソビエト連邦崩壊後は旧ソ連諸国の民主化や市場経済移行を支援した。

オバマ政権の副大統領に就任後、2009年7月にウクライナを訪れ、「ウクライナがNATO加盟を選択するなら、米国は強く支持する」と伝えた。当時のウクライナでNATO加盟論は少数派で、この発言は突出していた。

2014年に親欧米派デモ隊によって親露派・ヤヌコビッチ大統領が追放されると、プーチン大統領が素早く行動し、クリミアをロシアに併合。東部でも親露派が独立を宣言した。この時、米中央情報局(CIA)のキエフ支局にはケース・オフィサーが3人しかおらず、ロシアの動きを察知できなかったことが後に判明している。

米紙「ニューヨーク・タイムズ」(2020年3月6日)によれば、当時、ホワイトハウスも情勢の急展開で大混乱した。バイデン副大統領は「モスクワに侵略の代償を血と金で支払わせる」と断固たる行動を取るよう主張した。しかし、オバマ大統領は強硬論に与しなかった。