リモート集会を開くも士気は上がらず
世界青年部総会も終わり、10月に入ったころから徐々に都構想に関する動きが出てきた。
創価学会の組織のなかで“活動の現場”と位置づけられている「地区(丁目を2分割、または3分割した範囲)」という単位の責任者には、上層部から「都構想に関して不満を持っている人がいれば説得してもらいたい」という指示があったという。
今回の都構想をめぐる住民投票では、公明党としては賛成の立場にあるが創価学会としてはあくまでも「自主投票」という立場を取っていた。しかし、実際にはこの頃から創価学会は信者に対して賛成を促す方向で現場は動いていたのだ。
地区の責任者たちは感染症対策をしたうえで信者の自宅を訪問することや、電話などで都構想のメリットや実現する意義などを伝えて説得することになっていた。しかし、実際には表立って反対を表明する信者は少なく、反対者を説得するという場面はあまり見られなかったという。
他にも、大阪選出の衆議議員の活動報告会という名目でZoomを使ったリモート集会を開催し、そのなかで都構想への賛成を呼び掛けていた。取材した現役信者の地域では、このリモート集会に500人以上が参加したという。
ただ、それなりに人が集まったと言ってもリモート集会では信者の士気を高めることは難しい。普段の選挙活動であれば大人数で会館に集まり、お互いに友人への投票依頼に関する成功エピソードを共有するなど、相互にモチベーションを高めることができる。
しかし、リモート集会では一方的に話を聞く程度のことしかできず、参加していた信者たちもなかばひとごとのような雰囲気で話を聞いていたという。
自主投票に混乱する「常勝関西」
10月下旬に入り住民投票に向けた動きが最終盤に入ってくると、都構想賛成への雰囲気が少しずつ強くなっていった。取材した現役信者の友人である公明党職員は「公明党大阪本部の雰囲気はピリピリしていた。職員はみな“絶対に勝ちたい”という気持ちで動いている」と語っていたという。
10月29日には、「現場徹底を宜しくお願いします」という前置きをした上で次のようなメッセージがLINEで上層部から現場の責任者に届いた。
「我々が信頼する公明党が全力で頑張っているので、公明党の意見を良く聞いて必ず投票に行って下さい。最前線までお伝え下さい」
このLINEには10月18日に公明党の山口那津男代表が大阪の中央区で街頭演説している動画も添えられていた。この演説のなかで山口代表は、公明党が一貫して大都市制度改革に賛成してきたことや、都構想に関する4つの改善点を大阪維新の会へ提案したことなどを挙げ、「どうか、11月1日の投票日、賛成と票を入れていただきたい」と訴えた。
この山口代表の演説動画も、結果からすれば効果は限定的だった。今回の住民投票において、創価学会はあくまでも「自主投票」という立場を取っていた。そのため、さきほどのLINEでも「公明党の意見を良く聞いて必ず投票に行ってください」という表現にとどめられている。
また、創価学会の信者は、このような「自分で投票先を決める」という経験がほとんどない。これまでの選挙活動においても、応援する候補者が明確に決まっており、その候補者を勝たせるために投票依頼を行っていくという、結論ありきの選挙活動を行ってきた。
そのため、投票先を組織から明言されなければ、どうしたらいいか分からなくなってしまう人が多いという。
「常勝関西」と呼ばれる大阪の創価学会においてもその事情は変わらない。