一日に3時間働けば、十分に生きていける社会がやってくる

大恐慌のさなかの1930年、経済学者のジョン・メイナード・ケインズは「孫の世代の経済的可能性」という講演の中で、今日の私たちにとって大変興味深い、ある予言をした。「百年後、一日に3時間働けば十分に生きていける社会がやってくるだろう」─そして、いまこの記事を読んでいる貴方は、ケインズの予測した百年後の世界を生きながら、おそらく毎日8時間以上を労働に投入している。

デヴィッド・グレーバー著 酒井隆史、芳賀達彦、森田和樹・訳『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)
デヴィッド・グレーバー著 酒井隆史、芳賀達彦、森田和樹・訳『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)

表面的に言えば、ケインズのこの予言は「大外れ」としか言いようがない。が、本当にそうなのか。たとえば、こうは考えられないだろうか?

すなわち「ケインズの予測は実現した。私たちが社会を営んでいくために必要な仕事=エッセンシャルワークはすでに一日3時間も働けば十分にまかなうことができる。残りの仕事は、社会に何らかの価値も意味ももたらすことのない『無用の仕事』をやっているにすぎない」と。

そして、この仮説に対して「その通りだ、私たちの大半は、価値も意味も生み出すことのないブルシット・ジョブ=クソどうでもいい仕事になっている」と指摘しているのが本書である。実に強烈なタイトルだが、著者はロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで人類学を教えていたど真ん中のアカデミーキャリアの持ち主。本書そのものも極めて重厚な社会学研究書となっている。グレーバーが指摘する問題は私たちの社会にとって極めて深刻なものだ。そのエッセンスを抜粋しよう。